「薬物の楽しさをわかれよ」。この一言が決定的だったという。

 大阪府交野市の男性保護司(75)に2年前の夏、こんな言葉が飛んできた。相手は、薬物事件で保護観察付きの執行猶予判決を受けた対象者だった。

 「はっきりと、『そんなことわかりたくもない』と言うべきだった。でも、言葉に詰まってしまった」

 保護司として約1年立ち直り支援を担当してきたが、「話をしていてもずれるというか……」。コミュニケーションがうまくとれないと感じていた。

 観察期間はもう1年ほど残っていたが、「これ以上は無理です」。連携して立ち直り支援にあたってきた保護観察官に願い出た。担当保護司から外れた。

 その後、保護観察官が立ち直り支援を直接担当することになって、再犯することなく保護観察期間を終えたと耳にした。

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無償のひと ~保護司殺害事件の余波~

大津の事件後 対策が動き出した

 保護司は非常勤の国家公務員だが、無報酬のボランティア。一方、保護観察官は、心理学や教育学などの専門知識を備えた職員だ。

 保護観察官が直接関わる態勢へと強化されようとしている。その対象が、「4号観察」と呼ばれるケースだ。

 更生保護法の規定では、保護観察の対象者は四つに分類される。家裁で保護観察処分を受けた少年▽少年院を仮退院した人▽刑務所から仮釈放となった人、そして、保護観察付きの執行猶予判決を受けた人が4号観察と呼ばれるケースだ。

 大津市で今年5月、保護司(当時60)が自宅での面接中に殺害された。逮捕・起訴されたのは、この保護司が立ち直りを担当していた男(35)。2019年に別の強盗事件で保護観察付きの執行猶予判決を受けていた。

 事件前から保護司制度のあり方を検討してきた法務省の検討会は10月、4号観察について「保護観察の開始当初は、保護観察官による直接担当とし、再犯リスクや特性を見極めた上で保護司を指名するか判断する運用を検討する」とした報告書を法相に提出した。

 保護観察の制度に詳しい岡邊健・京都大学大学院教授は、「4号観察には専門性が必要な難しいケースがある」としたうえで、裁判所の「丸投げ」を指摘する。

 ――4号観察の対象者は、ほかの対象者とどう違いますか。

 4号観察の対象者の中には、医療や社会福祉の分野など専門性が必要となるような難しいケースがあります。現状では、対象者を一度、保護観察官が面接して、直接担当するもの以外は地域の保護司が指名される仕組みです。比較的難しいケースは経験豊富な保護司に任せてきたと思いますが、無理があったのではないでしょうか。

保護司に任せる前に 海外と比較すると…

 理想を言えば、4号観察は保…

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