中国で2015年に多くの弁護士が拘束された「709事件」の名称は、「中国で最も勇敢な女性弁護士」といわれる王宇さん(54)が7月9日に拘束されたことに由来する。
拘束翌年の8月、王さんが反省を語ったニュース映像は、世界に衝撃を与えた。
いまもネット上に残っている映像で、王さんはこう語る。「私は確かに法廷で過剰な振る舞いをした。SNSで不適切な発言をしたり、海外メディアの取材に応じたりもした。私は非常に恥じ、悔いている」
【連載】取材阻む男たち、人権派弁護士を監視 中国「法治」と「安全」の間で
中国で、人権派弁護士が一斉拘束された「709事件」から10年。市民の権利の守り手である弁護士と家族は、刑罰を超えた過酷な取り扱いを受けてきました。今も普通の暮らしを取り戻せずにいる彼らを訪ねました。
この発言は放送当初から、当局に強制された疑いが指摘されてきた。発言の裏にどんな事情があったのか。どんな思いでこの10年を過ごしてきたのか。王さんに取材をお願いした。
節目となる7月9日が近づくと、当局の妨害などで取材が難しくなる恐れがあったため、取材は4月中旬に行った。
待ち合わせたのは北京市郊外のオフィス街。王さんは80代の母親を連れ、いつも通りの穏やかな笑顔で現れた。休日でがらんとしたハンバーガー店に入り、コーヒー片手に記憶を振り返った。
王さんが拘束されたのは、15年7月9日の未明だった。
自宅の電気とネットが突然、落ちて使えなくなった。玄関先で電動ドリルの音が聞こえる。「警察が外からドアをこじ開けようとしている」。王さんはそう悟った。
夫でともに人権派弁護士をしてきた包竜軍さん(55)と長男(26)は、長男の留学先の豪州に向かうため、空港に向かったばかり。家から見送ったきり、2人とも連絡がつかなくなっていた。
王さんは危機を伝えようと知人に電話をかけたが間に合わず、突入してきた警察に拘束された。
突然、国営メディアが報じた7年前の事件
予兆はあった。
約1カ月前、中国国営メディ…