ウクライナ西部リビウで2024年7月15日、取材に応じるアントン・ドゥカチ選手=杉山正撮影

 五輪は「平和の祭典」である。でも、現実は違うのだと、悟らざるを得なかった。

 2022年2月24日未明、アントン・ドゥカチ(30)は車で移動中だった。目的地はウクライナの首都キーウ。北京冬季五輪にリュージュ競技で参加した直後、他の選手ともに、政府との祝賀会に出席するためだった。

 異変に気づいたのはキーウに到着する30分前だった。ミサイルがウクライナ上空に飛んできたと知った。ロシアによる、全面侵攻が始まった。

 北京五輪・パラリンピックの「休戦期間」に起きた蛮行。誰も予期していなかった。すべての予定は取りやめになった。

 「ロシアは休戦協定を破り、ルールなど気にもとめないことを示した」

 その後、ロシアはキーウに向け進軍した。拷問、性暴力、殺人――。昨日まで普通の生活を送っていた多くの市民が、犠牲になった。

 アスリートも例外ではない。侵攻後、これまでに487人以上が殺された。競技をあきらめ、前線に行った人たちも多い。スポーツ施設が標的になる攻撃も相次ぎ、国内では500以上が破壊された。

スポーツの中立 「存在しない」

 自身は侵攻開始後、5カ月近…

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