勉強の先取りに、様々な習い事――。我が子には自由にのびのびと育ってほしいと思うのに、つい、あれもこれもやらせなくてはと、せき立てられることはありませんか。「やりすぎ教育 商品化する子どもたち」の著者で、臨床心理士の武田信子さんは、大人たちの期待が、子どもを疲弊させていると指摘します。
たけだ・のぶこ 臨床心理士。武蔵大学人文学部教授などを務めた。子どもたちの育つ環境の改善に取り組む一般社団法人「ジェイス」代表理事。著書に「やりすぎ教育 商品化する子どもたち」など。
――子育てをしていると、「子どもにはこれをやらせるといい」といった情報があふれています。
塾通いや、英会話やスポーツの習い事など、あらゆる分野で投資の低年齢化が起きていますね。
子どもが楽しんでいる限りはいいのではないかと思いますが、一線を越えるとよくないことになるので注意も必要です。
――「一線」とは、どのあたりでしょうか。
多くの親は、子どもをよりよい状態にしたいと願います。ところがそこに、例えばほかの親子の成功に刺激されるなどして、比較や競争心、自分への承認欲求が加わることがあります。
休憩時間や睡眠時間を奪ったり、行動の制限や過度な要求をしたりし始めたら要注意です。
人としての成長発達のニーズではなく、強制される教育
――著書の中で、「エデュケーショナル・マルトリートメント(教育をめぐる不適切な行為、やりすぎ教育)」という言葉が登場します。
まずマルトリートメントの「マル」は「不適切」という意味で、子どもへの不適切な関わりやひどい行いを指す、これまでの日本語の「虐待」よりも広義の「虐待」を意味する言葉です。
エデュケーショナル・マルトリートメントは、2010年に欧州の教育系学会で日本の教育状況について報告するために私が用いました。
子どもが真に人としての成長発達のニーズから学ぼうと思うのではなく、大人の将来への不安や欲望から強制的に学ばせられる状態を指しています。
親による教育虐待もそこに含まれますし、教師など大人たちによる連続的な教育の強制や遊びの剝奪(はくだつ)なども含みます。
子どもを「いいレール」に 大人の責任の呪縛
――大人が教育でマルトリートメントをしてしまうのには、どのようなパターンがありますか。
多いのは、自分自身の不安を…