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「ジェンダーの視点でとらえ直せば沖縄の問題が変わる可能性がある」と話す喜納育江・琉球大教授=2024年5月10日午前11時42分、沖縄県西原町、伊藤和行撮影
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 全国の米軍専用施設の7割が集中する沖縄で、女性への抑圧や貧困、差別の問題が表面化している。1人あたりの県民所得は最低で、母子世帯率の多さは全国1位。これらを「自己責任」と片付けていいのだろうか。琉球大学の喜納育江教授(ジェンダー研究)は「沖縄が抱える問題をジェンダー視点でとらえ直す必要がある」と提言している。

 ――近年、沖縄の女性の貧困や男性からの抑圧、差別などの問題がクローズアップされています。

 沖縄で大きな社会問題といえば、米軍基地問題です。米軍機による事故や、米軍人・軍属による事件など基地被害は繰り返され、沖縄の人たちは悲惨な犠牲をはらってきました。他にも、明治政府による琉球の併合、県民の4分の1が犠牲になった沖縄戦、27年間の米軍支配、「本土並み」を目指した復帰運動など、日本とは違う歴史や政治、文化をふまえた様々な問題があり、多くの研究や語りがなされてきました。

 しかし、その多くは男性によるもので、女性の立場からの視点が抜け落ちてきたと感じています。沖縄は琉球王国時代から、男尊女卑の伝統・慣習が根強い地域です。社会や学問の視点は、どうしても男性中心となってしまい、マイノリティーである女性や子どもが直面する問題の理解は進みませんでした。

 ――確かに、子どもや女性の貧困、DV被害、ひとり親家庭の実態が報告され始めたのは最近です。

 はい。かつての私もその視点は抜けていました。那覇市の首里で生まれ育ち、琉球大学で学びましたが、教員はほぼ男性。米文学を専攻しましたが、米国の女性作家のことを研究したいと伝えると男性教員から「主流ではないから」と言われ、疑問に思いながらもあきらめていました。

 しかし卒業後の1991年に米国の大学へ留学し、「ジェンダーバランスカリキュラム」という試みに出会いました。

 ――どういうものですか。

 すべてのカリキュラムに、ジェンダーの視点を採り入れる試みです。例えば、これまで男性文学中心だった研究を反省し、女性作家の作品を読み直して再評価する。女性というだけで埋もれていた作品の新たな価値が見つかり、世界が広がりました。

 留学最後の年だった95年、沖縄で米兵3人による少女暴行事件が起きました。私は、仲の良かったプエルトリコ出身の同級生に、怒りをぶつけました。沖縄が植民地化されてきた歴史から、過重な基地負担、米兵による性暴力事件が後を絶たない状況をとうとうと語りました。じっと聞いてくれた彼が最後に言ったのは「その少女は今、どうしているのかな」という心配でした。

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