広島市の平和記念公園を埋め尽くす群衆の前に立ち、白い半袖シャツ姿の男性が苦悩の表情を浮かべていた。
1963年8月5日の第9回原水爆禁止世界大会。そこで演説したのが当時62歳で日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)理事長だった森滝市郎さん(1901~94年、92歳で死去)だ。
「どこの国のどんな核実験にもどんな核武装にも絶対に反対」。自らの信念を述べると拍手が起こり、遅れて反発する声が上がった。
その2年前のソ連の核実験再開を巡り、原水爆禁止運動に強い影響力を持つ共産党と社会党の路線の違いが鮮明になっていた。
あらゆる核実験に反対する社会党に対し、当時の共産党は「防衛的な立場の社会主義国の核実験を、帝国主義国の実験と同列に論じられない」とソ連を擁護。運動の分裂が決定的になったのが、森滝さんが演説した大会だった。
その場にいた一人が当時28歳だった後のノーベル文学賞作家・大江健三郎さんだ。
大江さん「森瀧理事は支えられて立ち向かっている」
慰霊碑前で花を捧げる遺族ら…