外出の自粛、営業時間の短縮、マスクの着用といった新型コロナウイルスの感染対策は、感染拡大を抑えただけでなく、社会や経済にさまざまな弊害ももたらしました。
こうした弊害に流行初期から目を向け、有識者が集う政府の分科会で最初に行動制限に異を唱えたのが、行動経済学の第一人者である大竹文雄・大阪大特任教授でした。
大竹さんは、最初の流行から5年経ったいまも感染対策の一部が「社会規範」として残り、悪影響を及ぼしているといいます。詳しく聞きました。
行動経済学者 大竹文雄さん
――2022年1月の基本的対処方針分科会で、まん延防止等重点措置の延長や新規指定に反対した経緯を教えてください。
そもそも、20年4月に最初の緊急事態宣言が発令された直後から、もっと社会経済への影響を小さくする方策を考えるべきだと分科会などで発言してきました。
具体的には、宣言を出さなくても病院が感染者でパンクしないよう医療提供体制を充実させることでしたが、ほとんどかないませんでした。
転機は、21年12月頃からオミクロン株が広がったことです。まん延防止等重点措置が始まって1カ月後には、感染力は高いものの重症化率は低いことが分かってきました。
従来の濃厚接触者への行動制限によってエッセンシャルワーカーが不足するなど、むしろ弊害が目立ち始めました。
重点措置の実施条件として、コロナが季節性インフルエンザと比べて「肺炎の発生頻度が相当程度高い」と法令に明記されていました。条件を満たさなくなったと考え、22年1月から措置の延長や新規指定に反対しました。
医学的評価に時間
――重点措置が全面解除されるのは3月21日です。時間がかかったのは、医学的な評価に時間を要したからでしょうか?
そこに全ての責任があるわけではありませんが、そういう側面はあったと思います。
そもそも、当時の政府の行動計画は重症化率が下がるウイルス変異を前提としていなかったため、変異したから感染対策を緩和するということが想定されていませんでした。
また、緊急事態宣言や重点措置に補助金が絡んだことで、行動制限が長期化した可能性があります。
例えば、医療機関への支援金、時短営業した飲食店への協力金といったさまざまな補助金について、「宣言や措置が解除されて打ち切られたら困る」という人もいたのではないでしょうか。
このことは、宣言や措置が解除されても一部の支援金は残すことになったことからも推測できます。
――どうすればウイルス変異に応じてすぐ感染対策を緩和できるでしょうか?
変異が分かっても医学的に確定するまでに時間がかかれば、不要な感染対策が続きます。それによって何が失われるか、どのような損害があるかについてエビデンス(科学的根拠)を示す必要があるということです。
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