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「TRUMP 2028」と記された赤いキャップ=トランプ・ストアのサイトから

Re:Ron連載「望月優大 アメリカの観察」第3回

 4月24日、トランプ大統領のファミリー企業「トランプ・オーガニゼーション」が運営するトランプ・ストアが、「TRUMP 2028」と記された赤いキャップやTシャツなどの販売を開始した。Tシャツには「ルールを書き換えろ(Rewrite the Rules)」という文字も書かれている。

 2028年は次回の大統領選の年だ。書き換えるべき「ルール」とは、3選を明示的に禁じたアメリカの憲法の規定――「何人も、2回を超えて大統領の職に選出されることはできない」(修正第22条)のことをにおわせているのだろう。しかし、憲法改正のハードルは極めて高く、あくまで普通に考えればだが、不可能としか言いようがない。

 トランプ自身は、3月末のNBCニュースによるインタビューで「たくさんの人が私にやってほしがっている」「冗談を言っているわけではない」と言っていた。4月25日に公開されたタイム誌のインタビューでも、3選について「いくつかの抜け穴がある」「要請が押し寄せている」と語っている。

 そして、「TRUMP 2028」のグッズ販売ときた。

 「ルールを書き換えろ」と。

先を行く 43歳の大統領

 4月14日、エルサルバドルのナジブ・ブケレ大統領がホワイトハウスを訪れた。報道陣を前に、2人の大統領は蜜月ぶりをアピールした。

 ここ数カ月で、ブケレはトランプにとっての移民政策や治安政策上の重要なパートナーへと、急激に変化している。第2次トランプ政権が発足して4月末で100日が経ったが、2人の間でのこれほどの関係の深まりを、事前に想像できていた人は多くないだろう。かれらの特異な共鳴関係から、何が見えるだろうか。

 トランプ政権は、3月15日以降、第2次大戦時に日系人の強制収容に用いられたことでも知られる戦時法の「敵性外国人法(Alien Enemies Act)」を発動し、適正手続き(due process)を迂回(うかい)して、タトゥーなどを理由にギャングの構成員とみなした200人以上のベネズエラ移民らを国外に追放した。そして、かれらを(ベネズエラではなく)エルサルバドルが受け入れ、自国の巨大刑務所「CECOT(テロリスト監禁センター)」に収監してきたのだ。

 SNSでの発信が常に注目され続けるトランプに似て、ブケレも1千万人以上のフォロワーを抱えるTikTokを中心に、自身のSNSを縦横に使いこなす。これまでXのプロフィル欄で「世界で最もクールな独裁者(El Dictador más cool del mundo mundial)」や「哲人王(Philosopher King)」と自称してきた彼は、アメリカ大陸で面積が最も小さな国のリーダーであり、78歳のトランプより35歳も年下だ。

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2025年4月14日、米ワシントンのホワイトハウスで、ドナルド・トランプ大統領(右)とエルサルバドルのナジブ・ブケレ大統領が会談した=ロイター

 だが大統領の再選を阻む憲法を乗り越えた、つまり「ルールを書き換え」たという文脈においては、ブケレのほうがトランプよりも先を行っている。2021年、ブケレの政党が多数を占めた議会は、最高裁の判事5人と検察庁長官を罷免(ひめん)した。そうして入れ替えが行われたエルサルバドルの最高裁が、2度目(以降)の立候補を可能とする新たな憲法解釈を示したのだ。

 2019年に初めて大統領に選出されたブケレは、2024年に8割以上の得票率で再選して2期目に突入した。彼の人気を下支えしているのが、長年エルサルバドルが悩まされてきたギャングと治安の問題に対する、ブケレの極めて強圧的な取り組みだ。

 ブケレは2022年3月に「例外状態(Régimen de Excepción)」を宣言し、それ以降、政府がギャングの構成員とみなした人々などを8万人以上も逮捕し、投獄してきたとされる。2023年には南北アメリカ大陸で最大規模の刑務所となるCECOTも建設した。

 通常時では必要となる逮捕状なしでの拘束も可能とされ、結果として、自らの家族が正当な理由なく連れ去られたとして冤罪(えんざい)を訴える人々もいる。突然拘束された側が自らの無実を証明しようにも、裁判すら受けられない場合も多い。

 現在のエルサルバドルでは、およそ11万人もの人々が収監されているといわれ、650万人ほどの人口のうち1.6%以上が刑務所にいる計算だ。政府が発表する殺人率はここ数年で大幅に下がった一方、収監率が世界でも突出して高いレベルにまで急上昇している。

 ブケレはまだ43歳だ。憲法による再選禁止の壁はすでに取り払われ、2029年以降の3期目、4期目もその視野に入っているだろう。強権的な政策によって治安を回復したと誇るにもかかわらず、彼は今も「例外状態」を延期し続けている。

 ブケレが「例外状態」を解除し、人権の重要な一部をなす適正手続きを回復するという選択、さらには自らが大統領職からおりるという選択をする日が、いつか来るのだろうか。

「世界で最も前例がなく並外れた移民協定」

 アメリカとエルサルバドル、二国間の関係における転機となったのは、トランプ政権発足からわずか2週間後の2月3日だった。パナマやコスタリカといった中米諸国を歴訪中、エルサルバドルにも立ち寄ったマルコ・ルビオ国務長官に対して、ブケレ側から国外追放者の受け入れと収監につながる提案がなされたのだ。

 同日に行われた会見で、ルビオはそれを「世界で最も前例がなく並外れた移民協定」と表現し、そこに含まれる三つの内容を次のように説明した。

 1、アメリカに不法に(il…

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