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「終末期の延命措置医療費の全額自己負担化」などを「主な施策」に盛り込んだ参政党の公約(政策カタログ)

 人生の最終段階の医療のありようについて、複数の政党が参院選の公約に掲げている。財政負担を減らすため、一部の医療行為を行わないことを訴える政党もあるが、命の尊厳を脅かしかねないと専門家は指摘している。

 もっとも明確に公約で掲げる参政党は「終末期の延命措置医療費の全額自己負担化」を主張する。ほかに「欧米ではほとんど実施されない胃ろう・点滴・経管栄養などの延命措置は原則行わない」「本人の意思を尊重し、医師の法的リスクを回避するための尊厳死法制を整備」を明記した。

 神谷宗幣代表は9日、北海道函館市で記者団に「もちろん命の価値は大事にしないといけないというのは分かった上で、財政的な問題もあるので問題提起をしたい」と語った。

 これに対して、多くの高齢患者を診療し、みとりに向けた希望を聞いたり、臨終に立ち会ったりすることも多い医療法人社団悠翔会の佐々木淳・理事長は指摘する。

 「もっと医療を受けたいという場合も、十分に生きたからもういいという場合も、もとになるのは本人の希望。その医療を必要か不要か誰かが定義するのは、尊厳を脅かすことにもつながる」

 その上で「在宅医療を20年やっているが、そもそも、高度な医療を求めるよりも、苦痛なく穏やかに人生を終えたいというささやかな願いを持っている人がほとんど」と語る。

 参政党は公約の前提として、「終末期における過度な延命治療に高額医療費をかけることは、国全体の医療費を押し上げる要因の一つ」と記載している。

 そもそも「終末期」の明確な定義はなく、医療費を計算する上では、亡くなる前の1カ月間が目安の一つになっている。厚生労働省は以前、この目安に沿って、2002年度の終末期医療費を約9千億円と推計したことがある。年間の医療費全体の約3%だった。この推計には、心筋梗塞(こうそく)や脳卒中などの急病で亡くなった人も含まれている。終末期における延命措置に限れば、医療費に占める割合はさらに小さくなる。

 医療経済学者の二木立・日本福祉大名誉教授は「終末期というと、長く療養しているイメージがあると思うが、最近は高齢者への濃厚な医療が控えられており、そういう人の医療費はさらに少ない」と指摘。「厚労省の新たな推計はないが、終末期の医療費が国全体の医療費を押し上げている要因とは言えない」と話す。

 06年には富山県の射水市民病院で医師が患者の人工呼吸器を外して死なせたことが表面化。これを含め医師が捜査対象になる事件が過去に相次いだ。

 こうした状況を受け、厚労省は07年、終末期医療に関する指針を示した。ただ、法整備を求める声もあり、超党派の議員連盟は12年、終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案(尊厳死法案)を公表したが、医療費削減を目的とした命の軽視につながらないよう、注意が払われてきた。

 13年の参院予算委員会で、当時の安倍晋三首相は「尊厳死は極めて重い問題であると思うが、大切なことは医療費との関連で考えないことだろう」と述べている。

 ほかの政党も公約で、人生の最終段階の医療のありように言及する。国民民主党は「本人や家族が望まない医療を控え、望む形の最期を迎えられるよう支援する」ことを目的に「終末期医療の見直し」を掲げた。昨年の衆院選の公約で「尊厳死の法制化による終末期医療のあり方の見直し」を挙げ、玉木雄一郎代表は当時の党首討論会で「社会保障の保険料を下げるために高齢者医療、特に終末期医療の見直しにも踏み込んだ」と発言した。ただ、その日のうちに自身のXで「尊厳死の法制化は医療費削減のためにやるものではありません」と修正した。

 日本維新の会も公約で「尊厳死(平穏死)について、賛否の意見を集めた幅広い議論・検討を率先する」としているが、医療費には言及していない。

 社会学者の伊藤昌亮・成蹊大教授は「国民民主や維新は、現役世代重視の姿勢を明確にして、高齢者への所得の再分配を小さくしようという『小さな政府』志向がある。ただ、命に関わることは政策的にタブーだった。参政はその一線を越えている」と話す。

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