松原隆一郎さん

 「富士見通り」から見える富士山の眺望が損なわれてしまう――。そんな理由から、東京都国立市で完成間近だったマンションが解体されることになり、話題を呼んだ。この問題が人々の関心を集めたのは、なぜなのだろう。そもそも都市の景観とは、誰のものなのか。経済学者の松原隆一郎・東京大学名誉教授に、経済思想の観点から聞いてみた。

所有権を支えるのは「労働投入」

 ――「富士見通り」からの富士山の眺望が損なわれることを理由にした新築マンションの解体。都市の景観をどう考えるべきなのかをめぐって、様々な意見が出ています。

 「景観は誰のものなのか。これは経済思想の観点からも興味深いテーマです。東京都国立市での今回のマンション解体問題では、次のような問いが提起されているのだと思います」

 「誰もが富士山を眺望できる景観を守るために、マンションを売る事業者やそこに住む人々の財産権に制限を加えることができるのだとしたら、その理由は何なのか、という問いです」

 ――景観法ができたこともあり、良い景観を守ることには公共的な価値があるとの意識は日本にも芽生えています。他方で、おカネを出して買えばその土地や建物をどう利用しようが買った人の自由ではないかとの声もあります。

 「私有財産制を正当化した哲学者ジョン・ロックは、人がある土地の所有権を持って他の人を排除できるのは、その人が労働を投入したからだと説明しました。自分の身体を使って地面を耕すなどの努力をしたことを根拠に挙げたのです。私から見るとこれは農業に限定された極端な議論のように見えますが、有力説とされている考え方であり、景観を経済思想的に考えるための糸口にもなります」

「みんなの長年の努力」が作り上げる景観

 ――所有や排除という視点か…

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