美容医療のトラブルが相次ぐ一方、医療界は、若手医師の美容医療への流出という問題に直面している。今や、診療所(クリニック)に勤務する美容外科医の半数は、20~30代の医師だ。何が起きているのか。
「美容業界はいずれ飽和すると思い、ここまで人数が増えるとは思わなかった」。日本形成外科学会理事長の貴志和生・慶応大教授はこう話す。特に想定外だったのが、「直美(ちょくび)」の増加だ。
直美とは、医学部を卒業し、2年間の臨床研修を終えて間もない駆け出しの医師が、美容医療に進むことを指す。
開業医が主に所属する日本美容外科学会(JSAS)の資料によると、2014年に400人弱だった正会員数は、24年に1600人を超した。最近では新規入会者の3人に1人が直美だ。
貴志さんによると、入局後数カ月で慶応大の医局を辞め、堂々と経歴に「慶応大学で研修」などと書く美容外科医も少数ながらおり、「肩書に利用されている」となげく。
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貴志さんが専門とする形成外科は、傷の修復やがん治療後の乳房再建、上のまぶたが下がる眼瞼(がんけん)下垂の治療などをするため、美容外科手術の基盤となっている。以前から美容医療に移る医師は少なくなかった。美容医療では、夜間や土日の急な呼び出しはほぼなく、医師1年目から2千万円以上の収入が見込める。
ただ、形成外科の手術の経験がほとんどない医師に高度な医療行為は任せられず、合併症にも対応できないこともある。術後の適切な対応を受けられず、別の医療機関に駆け込む事例もある。
「すごい低かった」医師のステータスも変化
貴志さんは「本当に安全安心…