《常盤貴子さんとみんなで一緒に下唐川(しもからかわ)にガーデンを作りましょう!》
LINEに届いた「下唐川通信」の109号は、いつにもまして華やいで見えた。
能登半島地震で大きな住宅被害のあった石川県穴水町の山間部、下唐川。元中学教諭で区長も務める加代(かだい)等さん(67)が昨年6月から、仮設住宅の住民らに生活情報や身近な明るいニュースを伝えるために「団地通信」を発行してきた。
かつて取材した記者の私にも送ってくれる通信は、地区の歩みに触れられる貴重な情報源だ。
- 孤立も道路啓開も待望のゴーヤチャンプルも 刻んだ62枚の団地通信
《公費解体がほぼ終わり、空き家を含め40軒のうち30軒が解体されました。地区の風景がすっかり変わってしまい……》
《ガーデンづくりを進め、そして、それが実現することになりました》
住宅が解体された後の更地を、住民たちで育てるコミュニティーガーデンとして整備し、お披露目の日には俳優の常盤貴子さんが訪れて一緒に花を植えるらしい。
5月15日、ガーデンのお披露目を見ようと下唐川に向かった。仮設住宅団地の横に田んぼが広がる集落の一角に、100人ほどが集まっていた。
400平方メートルほどの開けた土地にモミジやサクラ、サルスベリなどが植えられ、わき水から流れる小川にメダカが泳ぐ。真新しいウッドデッキを歩いて巡ることができ、木製のベンチもある。
地区の愛称「からこ」の名を冠した「Garden Karaco(ガーデン・カラコ)」の木製看板の除幕式の後、集まった人たちは木々を取り囲むように配置された花壇に花を植えていった。赤、白、ピンク、オレンジ、薄紫……庭が一斉にカラフルになった。
表札が示すもの
ガーデンの入り口には、大きな松の木と塀、門扉の一角だった場所があり、「深田」の表札が残されている。
そのそばでにぎわう会場を見てほほえんでいた深田幸子さん(85)が、「うれしくって、涙が出るね」と言った。
ここは深田さんの家だった。昨年元日の地震で全壊し、深田さんは金沢市の「みなし仮設」のマンションで暮らす。
昨秋、深田さんの家の公費解体を担った解体業者・宗重商店(金沢市)は、深田さん一家の意向をふまえて、家を取り壊す際に松の木が残る門扉周辺を残してくれた。
一方、区長の加代さんは、家々の解体が進むことで更地が増え、まちの風景が一変することへのやりきれなさを住民たちから度々聞いていた。そんな中、集落に度々通ってきていた若手研究者たちから提案されたのが、今回の「一人一花」プロジェクトだった。
若手研究者の一人、岩手大准…