5月下旬、平日夜の東京・六本木。
駅からほど近い、入場料のある本屋「文喫」。その一部を貸し切りにして、あるイベントが行われていた。
大通りに面したガラス張りの店内には、ゆったりとした音楽が流れる。人文科学や自然科学、アートや絵本など、約3万冊の書籍が並ぶという、本好きにはたまらない空間。コーヒーを飲みながら気になる本を片手におしゃべりする。
障害児の親に「自分」だけの時間を
集まったのは、障害がある子どもを育てている親たちだ。題して「東京おでかけプロジェクト」。「自分」に戻る時間を作ってもらおうと、企画された。
埼玉県の峯尾志穂さん(38)は、いつもは使えない駅の階段を、駆け上がるようにして店を訪れた。夜、1人で外出するのはずいぶん久しぶりだ。
峯尾さんは、てんかんの発作があり、たんの吸引などの医療的ケアが必要な娘(8)と、片耳に難聴がある息子(5)を育てている。
娘は1日3、4回ほど発作を起こす。呼吸やたんの吸引をしやすくするために気管切開をしているが、娘の体調や医療機器の異常がないか、緊張がとけるときはない。外出も、重い機械と娘を乗せた、自分の体重ほどあるバギーと一緒だ。
峯尾さんは言う。「ここに来るまでは予定の調整も大変。でもおでかけプロジェクトに来ると、わたしに戻れる気がするんです」
■「自分にわがままになる」…