雲ノ平の湿原にたたずむ伊藤二朗さん=伊藤進之介撮影

 各地の登山道で危機的な荒廃が進み、人が歩くことによる土壌や植生の浸食が止まらない。ここは中部山岳国立公園に指定されている北アルプス奥地の雲ノ平。山小屋を経営する伊藤二朗さんは、全国からボランティアを集め、浸食された植生の復元や登山道の維持管理に取り組んでいる。まもなく山の日。自然の価値とは何ですか。

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維持管理できず、道を作れば道から崩壊

 ――富山側の登山口から登ってきました。ちょうど雨が強く、背丈ほどの深さまでU字に土がえぐれた道があり、泥水が流れていました。別の場所では、周辺環境にはない不自然に丸い石が木枠の中に敷き詰められた道があり、一部で枠が壊れ、石が転がり出ていました。なぜこうした荒廃が起こるのでしょう。

 「登山道の整備は、これまで各地域の山岳会や山小屋が自主的に担ってきました。しかし山岳会は高齢化し、山小屋も物価高騰や人手不足から整備がままならなくなりました。集中豪雨や猛暑などの異常気象も影響し、いたるところで道の荒廃に起因する土壌や植生の浸食が起きています。ひとたび道を作れば、道に利用の負荷がかかり、整備し続けないと、道から崩壊します。しかし、道を維持するシステムが脆弱(ぜいじゃく)なのが日本の国立公園です」

 「国立公園を保護・管理する環境省のレンジャーの数を欧米の国立公園と比べれば明らかですが、自然保護の予算規模は小さく、人材は全く足りません。高山の環境に関する知識や、景観への配慮がない業者が公共工事を請け負えば、道も自然環境も荒れます。また守るべき自然の価値基準が定まっていないので、荒廃する状況を評価すらできないのが現状です」

折立登山口から雲ノ平へ至る道中の登山道の荒廃の様子。右は樹林帯の道。左は稜線近くの道=2024年7月14日、伊藤進之介撮影

リスペクトしながらも「あって当たり前」

 ――なぜきちんとした保護の仕組みがないのでしょうか。

 「いまの国立公園では、世界…

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