全国高校野球選手権大会の2回戦で東洋大姫路(兵庫)に敗れ、花巻東の「夏」が終わった。最後まで印象的だったのは、各打者から放たれる強烈な打球だ。
「冬の土日はバットを1千回振っていました」。現地入り後、練習の合間に複数の選手がそう教えてくれた。
冬場は基礎トレーニングに力を入れ、その9割はウェートトレーニングに割くという。体をつくりつつ、素振りでスイングする力を磨く。力強くフルスイングする打撃スタイルについて、佐々木洋監督は「単に勝つだけでなく、大学やプロでの将来につながる力をつける」と狙いを説明する。
かつてはたたきつけるような打撃で単打を重ね、犠打などを駆使して「戦術で勝つ」という昔ながらの高校野球を指導していたという。だが戦術に頼りすぎると、選手個々の力を伸ばすことが難しくなる。
「そのうち、本塁打が出るチームの方が勝てる、との知見も出てきました。確かに3安打でも点が入らないときはあるが、本塁打なら間違いなく入る。しっかり打たせて個々の成長を促すことと勝利は両立できる、と考えました」
その実現には強靱な肉体が必要だ。体を鍛え抜き、パワーを土台に強打をめざす今の姿が生まれた。教え子の大谷翔平選手(ドジャース)が渡米した頃から、大谷選手の見解も聞き、調えてきたスタイルという。
1回戦の智弁和歌山戦で流れを呼び込んだ一回裏の逆転は、打力を信じた強攻策が奏功した。
先頭が単打で出塁すると、次打者の佐藤謙成選手(3年)にはバントでなくヒッティングを指示。佐藤選手は期待に応えて中前安打を放ち、無死一、二塁と好機を広げ、2得点につなげた。「(強打の)智弁和歌山相手に1点ずつ返しても追いつかない。チャンスを広げるには打つんです」と佐々木監督は解説する。
10安打した東洋大姫路戦でも打球の鋭さが光った。敗色濃厚な6点を追う八回、赤間史弥選手(2年)の右中間を抜く2点適時三塁打は「もしかして」を期待させる見事な一打だった。
主軸のうち、赤間選手のほか古城大翔選手も2年生。2人は高校生には使いこなすのが難しい木製バットで打席に立つ。古城選手は甲子園で長打が出なかったが、岩手大会では本塁打を放ち、チーム一の9打点を稼いだ。2戦とも先発した萬谷堅心投手(2年)は、ピンチでも落ち着いた投球ができる。智弁和歌山戦は要所を抑え、1失点と活躍した。2年生の著しい成長が見られた「夏」だった。
甲子園で経験を積んだ2年生主体の新チームに対し、「春」に向けてまもなく始まる秋季大会では岩手県内各チームが攻略を図る。切磋琢磨(せっさたくま)による県内全体の底上げを期待したい。