王谷晶さん=河出書房新社提供

 英国推理作家協会(CWA)が優れた犯罪小説やミステリー小説に贈るCWA賞(ダガー賞)が3日夜(日本時間4日朝)に発表され、翻訳部門に王谷晶さんの「ババヤガの夜」の英訳版「The Night of Baba Yaga」(サム・ベットさん訳)が選ばれた。過去には横山秀夫さん、東野圭吾さん、伊坂幸太郎さんの作品が候補になったが、日本作品の受賞は初めて。

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 ダガー賞は1955年に創設。米国のエドガー賞と並び、世界で最も知られるミステリー文学賞。1年間に英国で刊行された英語作品が対象で、最優秀長編に贈られるゴールド・ダガー賞をはじめ、多くの部門がある。

 元々は翻訳作品も含めて選考してきたが、2006年から翻訳部門が独立した。今年は、同部門に日本から柚木麻子さんの「BUTTER」(ポリー・バートンさん英訳)もノミネートされており、2作は僅差(きんさ)だったという。

 受賞作は2020年刊行。暴力が唯一の趣味の女性が、暴力団会長の娘の護衛を任され、裏社会の闇に巻き込まれていく。「シスター・バイオレンスアクション」を、迫力ある筆致で描いた。英国だけでなく、米国でも反響を得ていた。

 受賞理由は「まるで漫画のように、日本のヤクザの暮らしを生々しく描写したこの作品は容赦なく暴力的だが、そこには、異世界に身を投げ出された登場人物の深い人間性を浮き彫りにするというただ一つの狙いがある」「無駄がなく骨太な物語は独創性を帯びて輝き、壮大でありながらも風変わりなラブストーリーが紡がれている」などとされた。

王谷さん授賞スピーチ「私はミステリ専門ではないけれど」

 王谷さんは1981年、東京都生まれ。フリーライターなどを経て、小説執筆に軸足を移し、2018年に女同士の様々な関係を描いた短編小説集「完璧じゃない、あたしたち」を刊行。19年刊行のエッセー集「どうせカラダが目当てでしょ」(文庫化で「カラダは私の何なんだ?」に改題)も話題になった。

 王谷さんは3日夜(現地時間)に開かれた授賞式で、以下のようにスピーチした。

 今は、とにかく驚いています。完全に混乱しています。「モンティ・パイソン」のスケッチに出ている気分です。昨夜は「フォルティ・タワーズ」みたいな素敵なホテルに泊まりましたし。何より感謝したいのは、翻訳のサム・ベットさんです。この本は日本のローカルな要素がたくさんあります。サムさんはそういった作品の細やかな部分をひとつひとつ大切にしてくれて、そのうえで素晴らしい英訳を作り上げてくれました。本当にありがとうございます。

 私はミステリ専門の作家ではありません。様々な種類の作品を書きます。日本では作品と作家は細かくジャンル分けされているので、私は曖昧な作家と思われています。曖昧(あいまい)であることは私の作家としてのテーマそのものです。自分の曖昧さを受け入れ、他人の曖昧さを認めることが世の中をよりよくすると信じています。この作品の主人公たちも、はっきりとラベリングできない関係と人生を手に入れます。これは何よりも私が読みたかった要素です。

 同時にこれはバイオレンス満載の物語でもあります。ここにお集まりの皆さんは私と同じく血や殺人や犯罪や、復讐や暴力が大好きな方々だと思います。もちろんフィクションの。私はバイオレンスフィクションの愛好家ほど、よりさらに現実世界の平和を願い行動しなければいけないと思っています。リアルの暴力が溢れている世界では、フィクションの暴力は生きていけません。歴史が物語っています。これからも首無し死体やパーティでの毒殺を楽しむためにも、今回頂いた栄誉を、世界の平和のために少しでも役立てたいと思います。Thank you.

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