みなさん、血圧をはかりましたか? 今回は、血圧と食事がテーマです。血圧を上げてしまう食習慣について、公衆衛生学が専門の三浦克之・滋賀医科大学教授に語ってもらいます。
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血圧に悪影響がある栄養素の代表は、ナトリウム、つまり塩分と言うことは、みなさんご存じだと思います。では、人間が生きて行くために必要な塩分は、食塩換算で1日どれくらいか、分かりますか?
答えは、およそ1グラムあまり。日本人は、平均して1日9・8グラムの塩分を摂取していますが、その9割は、不要な塩分ということになります。
不要な塩分は、腎臓で濾過(ろか)され、主に尿として体の外へ排出されます。ところが、摂取した塩分が多すぎたり、腎臓の働きが弱っていたりすると、血液中の塩分濃度が上がります。塩分は血液のなかに水分を引き込むため、血液の量が増え、血圧が高くなるのです。
調味料を使わない先住民の血圧は?
1980年代に、世界32カ国が参加した、大規模な国際共同疫学研究(インターソルト研究)が行われました。約1万人の尿を採取して、血圧との関係を調べた研究です。その結果、調味料をほとんど使わない生活を送るブラジルの先住民は、1日の塩分摂取量が1グラムほど。高血圧とは無縁で、高齢になっても血圧が上がらないことがわかりました。
高血圧の予防や改善には、まず減塩、が大事なのです。
血圧には、塩分の他にも、肥満や飲酒も影響します。肥満度(BMI)が25以上になると、血圧が上がることがわかっています。また、アルコールも血圧を上げる要因になります。
逆に、塩分摂取量を1日5グラム減らすと、上の血圧は5ミリHgほど下がります。他にも、体重を平均4キロ落とすと、5ミリHgほど、お酒を飲む量を4分の1に減らすと、3ミリHgほど下がることがわかっています。
血圧を下げる5カ条は、まず減塩、そして体重の減量、運動、節酒、野菜と果物を取ることです。
日本高血圧学会の治療ガイドラインでは、血圧が高い人の塩分摂取量の目安を「1日6グラム未満」と決めています。国の食事摂取基準よりやや厳しい値ですが、6グラム未満を目指すことで、血圧を下げる効果や、脳卒中などのリスクを減らせることが分かっています。塩分は1日6グラム未満。血圧が気になる人は、この数字をぜひ覚えてくださいね。
「自分がどれだけ食べているか分からない」を解決 ナトカリ比
ただ、塩分の取りすぎが良くないことはわかっていても、難しいのは「自分がどれくらい塩分を取っているのか」がわからないことです。24時間尿をためて調べればわかるのですが、なかなか現実的ではありません。
そこで注目しているのが「ナトカリ比」です。尿に含まれるナトリウムとカリウムの比率を調べることで、およその塩分摂取量を推定することができるようになってきました。ナトリウムが少なければ少ないほど、カリウムが多ければ多いほど、数字は小さくなり良い結果になります。
学会では昨年、尿ナトカリ比(ナトリウム対カリウム)の目標値を「2未満」、現実的には日本人の平均となる「4未満」を目標とすることを決めました。
ただ、この数値の単位は、原子量のmol。なんのことだか分かりませんね……。
でも簡単です。要は、国の食事摂取基準に示されたナトリウムと、カリウムの摂取量を実現すればよいのです。詳しくは次回にゆずりますが、これができれば、理想的な数字に近づけることができますよ。
最近はその場で尿ナトカリ比がわかる「ナトカリ計」という機器も登場しています。研究用として販売されているため、個人で手に取るのは難しいですが、自治体や、企業の健康診断で取り入れている所が出てきています。厚生労働省でも実証事業が進められていて、近い将来、健康診断などで当たり前にはかれる数字になってくるかもしれません。
次回は、外食や中食でナトカリ比を下げる工夫についてご紹介します。