静岡県富士市南部の静かな住宅街に1年半前、外国人観光客(インバウンド)が突然、押し寄せるようになった。国道の橋と富士山を重ねて撮影した写真が、SNSで世界中に拡散したからだ。一時は観光公害(オーバーツーリズム)が住民との摩擦を生んだが、行政と地元が協力して沈静化した。この降って湧いた事態を逆手に取り、市全体の観光振興につなげる作戦が始まった。

夢の大橋につながる階段で、富士山を背景に写真を撮る外国人観光客。誘導員(右)が配置されている=2025年6月5日午後1時14分、静岡県富士市蓼原、吉村成夫撮影

 橋の名は「富士山夢の大橋」。視界を遮るものがなく富士山の全景が望め、橋の階段が山頂へ続くように見えることから、撮影スポットとして知られるようになった。

 6月の晴れた日、雲をまとった霊峰が姿を見せた。橋の下では数十人の外国人が列をなしていた。誘導員の案内で静かに撮影の順番を待っている。

 タイ人のトンスクさん(46)一家は成田空港から車で直行してきた。「タイでは最近、SNSで広まった。みんなこの場所にきたがっている。私は神の山に祈りたかった。家族が平和になれます」と話した。 チェコの大学生マテウ・バショーレックさん(24)はグーグルの口コミ欄で橋を知り、世界で一番行きたい場所になった。「素晴らしい形と神秘的な雰囲気がある。生で見られて満足です」。恋人と訪れたドイツ人のオルベク・ドミニクさんは、この橋と東京の渋谷だけが目的で来日したという。

 周辺の藤間地区には約千人が…

共有
Exit mobile version