フランス映画界の巨匠ゴダールが最後に手がけた長編作品を「再構成」する展覧会が、東京・新宿で始まった。「《感情、表徴、情念 ゴダールの『イメージの本』について》展」と題し、8月31日まで開かれる。批評家の佐々木敦さんが、この特異な展覧会を読み解く。

会場内に設営された幕に、様々な方向から「イメージの本」の映像が投影されている

『イメージの本』の映像と音響を再構成

 二〇二二年九月十三日、ジャン=リュック・ゴダールは、母国の一つである(彼はフランスとの二重国籍だった)スイスの法律に則(のっと)って、自ら望んだ安楽死というかたちで九十一歳の人生を閉じた。それからまもなく三年が経とうとしている。本展は、晩年のゴダール作品を主に撮影監督として支えたファブリス・アラーニョが、自らも深く関わったゴダール最後の長編『イメージの本』(一八年)を映像と音響のインスタレーションとして再構成した、非常にユニークな展覧会である。

 そもそも『イメージの本』という映画自体、ほぼ全編が、映画史からの膨大な引用と、テレビやネットのニュース動画などのめまぐるしいコラージュで出来上がっている特異な(といってもゴダールは過去にも同様の試みをしていたのだが)作品だった。アラーニョは無数の断片から成る一本の映画――しかもそれは「本」と名乗っている!――を展覧会というまったく異なる形式に嵌(は)め込もうと試みた。ドイツやスイスで開催されてきた一種の巡回展だが、東京の会場として選ばれた建物が、また極めてユニークなのである。

 新宿歌舞伎町のど真ん中に位…

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