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朝日俳壇

うたをよむ 田丸千種

朝日新聞歌壇俳壇面のコラム「うたをよむ」には俳人の田丸千種さんが寄稿。虚子編「武蔵野探勝」を取り上げ、吟行の魅力に触れています。

 まさをなる空より枝垂桜(しだれざくら)かな

 桜の季節、必ず口をついて出るのは高浜虚子の弟子、富安風生(ふうせい)のこの句だ。昭和十二年、千葉県市川市の弘法寺での「武蔵野探勝」にて作られた。

「武蔵野探勝」とは、武蔵野を中心に毎月場所を変え、各地を吟行して句会を行うという企画で、昭和五年から十四年まで百回にわたって開催された。メンバーは虚子を中心とした二十名から四十名ほど。水原秋桜子(しゅうおうし)、高野素十(すじゅう)、中村草田男ら錚々(そうそう)たる俳人が吟行記事を書き、月刊の俳句誌「ホトトギス」に掲載された。

 これを集めて刊行された虚子編『武蔵野探勝』は、今読んでも躍動が伝わる。

 野火ゆきて萱(かや)倒れゆ…

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