季節はずれの雪が降り続いていた3月下旬、春休みの神奈川県立川崎高校は、灰色の空の下でしんと静まり返っていた。
1階のひとつの教室だけ、こうこうと明かりがついてた。
教室には机を向かい合わせにした島が、二つ。10代の子どもたち20人ほどが座っている。
「学校が始まる時間、何時?」。前方のモニターに質問が映し出された。
「8時50分!」「9時!」
数人が元気よく答えた。子どもたちは、ネパールや中国の出身だ。
前に立った高橋清樹さん(70)は元高校の教員。答えにうなずくと続けた。「じゃあ、学校が始まる時間って?授業が始まる時間?それとも校門に入る時間?」
とたんに、教室じゅうに日本語や英語、ネパール語や中国語が飛び交った。高橋さんの問いを、そばに立つ支援員たちが子どもたちの母語に翻訳したからだ。口々に、いろんな言語で答える声が上がり、にぎやかに「授業」が進んでいく。
県立高校に入学を控えた外国籍の子どものための10日間の「プレスクール」だ。日本の高校の仕組みや日本語を入学前に無料で学べる。
この日は、高校で習う教科や、卒業に必要な単位数などの説明を受けた。別の日には、模擬授業や、外国籍の「先輩」在校生から経験談を聞く場面もあった。
神奈川県教育委員会の委託を受けて、NPO法人「多文化共生教育ネットワークかながわ(ME-net)」が4年前から行っている。今年は、午前と午後で計約40人が参加した。中には三浦半島から1時間以上かけて通う子もいた。
ME-netは法人化する前…