Smiley face
写真・図版
毎日のように使うSNSも、承認欲求と切り離せない。「この写真を見て」「私の文章を読んで」。いいねの数に一喜一憂してしまう

 誰かに褒められると、自分が認められたようでうれしくなる。子どもの時だけでなく、30代になった今でもそうだ。一方、期待したほどの評価が得られず、悩み苦しむこともある。そんな「承認欲求」と、どう付き合っていけばいいのか。マルチ商法の世界で認められたいともがき、堕(お)ちていく主人公を描いた小説「マルチの子」の作者、西尾潤さんに聞いた。

組織内で評価、のめり込んだマルチ

 ――小説は、自身の経験から生まれたと聞きました。

 この小説は2作目になります。アイデアを出していたときに、「20歳から2年半、マルチをやっていたことがある」と編集者に話したら、強く興味を持ってくれました。登場人物や出来事には、当時の実体験がベースになっている部分も多いです。

 小説の主人公真瑠子(まるこ)が、活動にのめり込んで抱えた借金は400万円でしたが、実際の私の借金はそれ以上でした。自転車操業の末にどうにもならなくなって、親に「お金を貸してください」と頼みました。父には「なぜもっと早く言わないんだ」と叱られ、母も頭を抱えて大変でしたね。「もうマルチの人たちとは関わるな」と強く言われ、私も改めてマルチ以外で働こうと決意して化粧品会社に就職したんです。それ以来、マルチとは縁を切りました。

 ――小説では、真瑠子の「自分を認めてほしい」という心理描写にかなり重きが置かれていたように思います。

 マルチをしていた当時は、忙しすぎて記憶もおぼろげなくらいです。なぜあそこまでのめり込んでいたのか。どっぷりとつかっていた当時は意識していませんでしたが、いま振り返ると、やはり承認欲求だったと思います。

 音楽が好きで、高校時代はバ…

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