衆院東京15区補選、東京都知事選、衆院選と、過去にない変化を感じさせる選挙が続いた「選挙イヤー」の中でも、斎藤元彦氏が再選された兵庫県知事選は大きなインパクトを与えた。結果をどう分析するか、さまざまな角度からの議論が続いている。社会心理学者で大阪大学教授の三浦麻子さんは、告示前の10月中旬から投開票後にかけて独自に有権者らの意識調査をした。その結果から何が見えてくるかを聞いた。
――今年の一連の選挙では、選挙制度の抜け道をうまく利用するような動きが加速しているように見えます
公職選挙法などの選挙制度は「性善説」に立っており、抜け道を利用するような動きをあまり想定していません。この数年で選挙制度を「ハッキング」する流れが大きくなり、小さな波から大きな波へと拡大してきました。
兵庫県知事選は、そうした動きがついに選挙の勝敗にも大きく影響を及ぼしたと言えそうです。ただ、今回特有の要因も含め、複数の要因が重なり、多くの人にとって意外な結果になったと受け止めています。
――要因は一つではないと?
まず、そもそも兵庫県知事選は東京や大阪、愛知の首長選ほど注目を集める選挙ではありません。知名度が高いタレント候補が毎回のように立候補し、当選することも多い都知事選などとは違い、歴代の兵庫県知事は官僚出身者が多く、それほど注目されてきませんでした。
旧国名でいうと摂津・丹波・但馬(たじま)・播磨・淡路という五つに分かれ、「ヒョーゴスラビア」という言葉があるほどで、県全体の一体感は低く、県民の知事選への関心も高くない。そうした中で今回の選挙戦はこれまでにない盛り上がりを見せました。
――調査から何が見えてきたのでしょうか
まず告示前の10月11~15日にネットのアンケート1回目を実施。選挙期間中の11月11日に2回目。投開票日(17日)直前の15日に3回目を実施しました。そして、投票終了直後と1週間後にも実施して、合計5回の調査を行いました。
記事の後半では、調査から見えてきた、これまで見落とされがちだった有権者層の存在を三浦さんが指摘します。仲間や家族を大事にし、エリートは信頼せず、現場たたき上げの警察や自衛隊への信頼度は高いが民主主義はあまり……そんな「常民」の存在とは。三浦さんの調査結果はネット上で公開されており、記事の最後でURLをご紹介しています
候補者の好感度を調べると、1回目は非常に低かった斎藤氏の好感度が、2~3回目に少しずつ上がっています。斎藤氏が9月に県議会の不信任決議により失職(30日)し、「孤独」な選挙戦に入ると「かわいそう」という反応がじわじわと浸透しました。
加えて今回特有の要因として重要なのは、10月に解散総選挙があったことです。10月9日に衆院が解散され、15日に総選挙が公示となり27日に投開票という日程でした。
この1カ月間、兵庫県知事選は世間の話題から消えました。知事失職から知事選までの日程が長かったことで「とんでもない知事だった」という印象が薄まり、「斎藤氏は悪くない」「かわいそう」「本当はいい人なのに」という正反対のイメージがSNSや動画を通して流布する余地が生まれました。
これに対し、斎藤氏と競合し…