詩人のアーサー・ビナードさん(57)は昨年の春、自身がパーソナリティーを務めるラジオ番組の収録で、谷川俊太郎さんの自宅を訪ねたことがあった。車いすに座った谷川さんは、体の動きはゆっくりだったが、文学や社会に対して鋭く斬り込むような話を2時間あまりにわたって語ってくれたという。
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「谷川さんは、自分が90年ぶりにおむつをはいている気分を恥ずかしがることなくさらけ出して、『老い』というものをどこまでも冷徹に見つめていた。『自分の老いた体を描くことは今しかできない』『老いとか、衰えるとか、死ぬということも新しい体験で、今しか描けない体験なんだよ』と話していた」
ビナードさんは、谷川さんに「僕らがやっている現代文学って、将来、何が残るんでしょうか」と質問した。すると「何も残りませんよ、全部消えますよね」との答えが返ってきた。その上で「もしかしたら体と直接つながるような音の表現とかは、『詠み人知らず』みたいに続く可能性があるけどね」とも付け加えたという。
「『ことばあそびうた』なんかを念頭に、そういう話をしていた。老いて何を発見したか、何を確信したかっていうと、谷川さんは『すべて体なんだよ。音として体に響くとか、くすぐったくて体が反応するとか、そういう身体性を持った言葉は時代を超える可能性がある』って言う。自分の作品も含めて『そうじゃないものは何も残らないよ』って、すごい笑顔で語っていた」
「自分の作品、突き放していた」
文学者として、詩人として…