洪水や土砂災害を引き起こす大雨が増加するなかで、特に支流を含む中小河川で、水害リスクの把握が遅れている。国が進める「洪水浸水想定区域図」の作成が、今年3月時点で約6割にとどまることが分かった。本来ある水害リスクが、市区町村の水害ハザードマップに反映されず、リスクが見落とされている恐れがある。
想定区域は、国や都道府県が指定し、想定最大規模の降雨(全国を15に分けた地域のそれぞれで過去に観測された最大の降雨量)の浸水範囲・浸水深などを示した区域図として公表される。国は2026年3月の完了をめざすが、指定が遅れれば、市区町村が作るハザードマップにも反映されない。
福島県では、指定が必要な440河川のうち208河川にとどまっている。同県いわき市では、23年の台風13号で避難所として開設した中学校体育館が浸水した。近くの支流が区域未指定で、市のハザードマップでは浸水リスクのない場所だった。区域指定後に市のマップも更新され、最大3メートル未満の浸水リスクが示された。市は風水害時の避難所としての利用を原則やめた。
県の担当者は「対象河川が多いので時間がかかっているが、来年3月の完成を目標に取り組んでいる」と話す。
茨城県でも、23年9月の台風13号で、区域未指定でいずれも県管理の8河川で越水被害が出た。県は指定作業を前倒しし、25年3月に全216河川の指定を完了させた。
同区域の指定は、01年の水防法改正で初めて義務づけられ、流域の広い「洪水予報河川」(431河川)が対象に。05年には、流域は狭いが洪水で経済に相当の影響を与える「水位周知河川」(1823河川)を加えた。しかし、中小河川での被害が相次ぎ、21年、支流を含めて1級河川の都道府県管理区間と、2級河川などについても、住宅などが周辺にある場合は対象になった。
国土交通省によると、21年の法改正で新たに指定が必要になったのは47都道府県で約1万8千河川。うち指定完了は1万1664河川(今年3月の速報値、達成率約64%)。18都府県が完了した一方、5府県(富山、滋賀、京都、鳥取、山口)では一つも指定が終わっていなかった。山口県の担当者は朝日新聞の取材に「かけられる予算や人員の都合などが影響しているのではないか」、鳥取県の担当者は「法改正後にすぐに着手した県とそうでない県とで差が出ている」などと説明した。
同省は26年3月までに指定をするよう都道府県に要請しており、担当者は「全ての都道府県が、今年度中の完了を予定している。順調と言えるかは分からないが、大きく遅れているわけではないという認識だ」と話す。
洪水浸水想定区域図とは
想定最大規模(全国15ブロックで過去に観測された最大の降雨量)の降雨により河川が氾濫(はんらん)した場合に想定する浸水範囲・浸水深・継続時間などを示した図。その河川を管理する国土交通省または都道府県が策定する。市区町村がつくる住民向けの水害ハザードマップの元データとなる。