広告・表示への意見・苦情や称賛を受け付けているJARO=公式サイトから

在英の「広告炎上チェッカー」 中村ホールデン梨華さん寄稿

 この1年間、日本のエロ広告規制を巡る議論は大きな転換点を迎えた。

 SNSで市民が声を上げ始めた当初、嫌がらせや誹謗(ひぼう)中傷を受け、中には殺害予告まで受けた人もいた。それでも未成年保護のために主に女性が声を上げ続け、料理レシピサイトの自主規制への取り組みや国会での議論を経て、2025年4月、「日本広告審査機構(JARO)」が広告主に注意を促し、電子コミックの業界団体が性的な広告の配信を停止するに至った。

 海外の広告倫理から学び、市民の声を広告に取り入れる活動を行う「AD-LAMP」代表として、広告表現の改善に取り組んできた視点から、この流れが日本の広告業界における転換点であると同時に、根本的な広告倫理への意識の欠如を浮き彫りにさせるきっかけとなったと考える。炎上や批判の繰り返しから、建設的な議論ができる時期に来ている。

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 現在の日本には、広告表現、とくにジェンダーや性的表現などの文化的表象を評価・規制する第三者機関が存在しない。また、業界による自主規制も機能しているとはいい難い状況だ。業界の定めるオンライン広告ルール(「インターネット広告倫理綱領」など)は、明確な基準を持てずにあいまいさを残している。

 JAROは広告・表示に関する民間の自主規制機関だが、これまで誇大広告や薬機法などの法的問題を扱うものの、性的描写やジェンダー表象といった文化表象を規制指導した事例は表立っては見られなかった。

ネット上の性的な広告表示の制限を求める署名が10万筆を超え、会見した発起人の女性=2025年6月4日、東京・霞が関

 だからこそ、今回JAROが「性的で不快である」という文化表象を理由とした市民からの苦情をきっかけに、電子コミック大手が加盟する「日本電子書店連合」に対して指摘を行ったことは、日本の広告倫理史における画期的な出来事だった。

 こうした広告倫理制度の欠如は、未成年や消費者を守るという社会全体の意識の希薄さを反映している。市民が求めているのは「不快だからやめろ」という感情的な要求ではなく、未成年に対する有害な影響を抑えたいという消費者保護の観点からの要求である。

■なぜ規制に踏み込めないのか

 よくある誤解として、「憲法の表現の自由があるから、政府は規制できない」という声がある。だが、それ以前の問題だ。

 国会でのエロ広告規制につい…

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