産業革命前からの気温上昇を1.5度以内に抑える――。猛暑や災害のリスクが高まるとされる水準に達するのを避けるため、国際社会が目指す気候変動対策の目標だ。ただ、残された猶予はほとんどない。日本も今年は10月に30度超えを記録。我々はすでに危険な世界に足を踏み入れつつある。

東京・銀座にあるミスト装置=2024年7月、友永翔大撮影

 8月、滋賀県の診療所で働く佐々木隆史さん(47)のもとに70代男性が運ばれてきた。訪問したケアマネジャーが熱気のこもる家でぐったりした男性を見つけ、かかりつけ医の佐々木さんの診療所に連れてきた。点滴をほどこし、大事に至らずに済んだが、手遅れになれば命の危険があった。

 熱中症を避けるにはエアコンを上手に使うことが欠かせない。だが、高齢者ほど、過去にエアコンなしで過ごした経験が長かったり、認知症の影響で判断力がにぶくなっていたりして、適切に使えていないケースが多い。そもそもエアコンを買う余裕がない人もいる。

 「気候変動のしわ寄せを受けているのは、高齢者や貧困層など、社会的に弱い立場だ」。佐々木さんは訪問診療で高齢者を診る度にそう感じている。

訪問診療に向かう佐々木隆史さん(右)=本人提供

熱中症だけでない迫る危険

 すでに近年では気温上昇の影響が顕著で、世界中で被害が拡大している。日本の消防庁によると、国内の5年平均の熱中症死者数は20年前ごろには約300人だったが、昨年までの過去5年では約1300人と4倍だ。国連の発表では、熱中症などで年間1万9千人の労働者が亡くなっている。

 2015年に採択された温暖…

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