記者会見で「背後から突き落とされた感覚」と話す作家の深沢潮さん(右)と代理人の佃克彦弁護士=2025年8月4日午後3時52分、東京都千代田区、伊藤宏樹撮影

 7月24日発売の「週刊新潮」が掲載したコラムで、「日本名を使うな」などと名指しで差別を受けたとして、作家の深沢潮(うしお)さんが4日、東京都内で記者会見を開いた。深沢さんは、発行元の新潮社に文書での謝罪と、誌上に批判・反論をするための紙幅を確保するよう文書で求めたことを明らかにした。

 問題のコラムは、週刊新潮7月31日号に掲載された元産経新聞記者・高山正之氏の連載「変見自在」。1940年、日本が朝鮮人に日本式の姓名に改名するよう強いた政策を引いて「創氏改名2・0」と題し、深沢さんをはじめ俳優や大学教授らの実名を挙げて、「日本も嫌い、日本人も嫌いは勝手だが、ならばせめて日本名を使うな」と記した。

 深沢さんは2012年に小説「金江(かなえ)のおばさん」で、新潮社主催の「女による女のためのR―18文学賞」大賞を受けデビュー。受賞作を収めた連作短編集「縁を結うひと」(「ハンサラン 愛する人びと」を改題)は新潮社から刊行された。

 深沢さんは「新潮社からデビューし、数冊の本を出せたことは幸せだったが、私の心は打ち砕かれた。屋上でいい景色を見せてくれたと思ったら、背後から突き落とされた感覚」と涙ながらに語った。

 会見では、作家らから寄せられた抗議のメッセージも紹介された。

 週刊新潮で連載小説を掲載している作家の村山由佳さんは「あれほどの差別と中傷に満ちみちたコラムの掲載を、どうして事前に止められなかったのか不思議でなりません。これまで同誌編集部への信頼をもとに原稿を寄せてきた者として、深い失望と憂慮を覚えます」。R―18文学賞の選考委員を務める作家の柚木麻子さんは「新潮社発行の雑誌で、事実誤認の情報のもと、深刻な人権侵害を受けたこと、それに対して誠実な対応がなされないことは、選考委員として看過できない」とのメッセージを寄せた。

 作家が版元に抗議をすることについて、深沢さんは「私は大作家ではなく、力関係は版元のほうが大きい」と打ち明けた。そのうえで「私が文芸界で面倒くさい人などと思われることは覚悟している。これまで声高に言ってこなかった作家さんたちが連帯してくださっているので、頑張っていける」と語った。

 コラムを掲載した週刊新潮が発売された翌日の7月25日、深沢さんはX(旧ツイッター)に「版元が守ってくれないということを思い知るのは作家にとって崖っぷちを一人で歩いていくようなもの」などと投稿した。それを受け、作家や翻訳家、編集者らが「あまりのひどい内容に啞然(あぜん)」「(深沢さんの)デビュー版元でもある新潮社からどうしてこんな記事を出せたのか」といった抗議の投稿が相次いでいた。

 深沢さんの代理人の佃克彦弁護士は会見に同席し、「深沢さんはデビュー当時からコリアンルーツであることを隠しておらず、本件コラムには事実誤認がある。外国にルーツがある人が日本を批判することを敵視していると言わざるを得ない。度し難い人権侵害のコラム」と非難した。

 新潮社は4日夜、ホームページに「今回、深沢潮様の心を傷つけ、多大な精神的苦痛を負わせてしまったことをたいへん申し訳なく思っております」「出版社として自らの力量不足と責任を痛感しております」「深沢様からのご要望は弊社に届き次第、真摯(しんし)に対応を検討してまいります」などとするおわびの文書を掲載した。

 担当者は朝日新聞の取材に「編集部から筆者に、世論や社会の要請についてお伝えすることが十分でなかった。それが結果として今回の事態を生んだ原因の一つ」と話した。高山氏のコラムは、今週発売号でも継続していくという。

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