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国家賠償訴訟の判決を終えて、支援者らに判決結果を報告する西山美香さん(中央)=2025年7月17日午後2時31分、大津市、伊藤進之介撮影

 滋賀県東近江市の湖東記念病院で2003年に死亡した患者への殺人罪で服役後、裁判をやり直す再審で無罪が確定した元看護助手の西山美香さん(45)が、国と滋賀県(県警)に計約5500万円の損害賠償を求めた訴訟で、県は25日、警察の捜査が違法だったと認めた大津地裁判決を受け入れ、控訴を断念すると明らかにした。県警の池内久晃本部長は記者会見を開き、謝罪した。

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 西山さん側は、県への控訴を見送る方針。県に約3100万円の賠償を命じた17日の大津地裁判決が確定する。一方で、地裁判決は検察の捜査の違法性を認めなかったため、西山さん側は、国に対しては控訴する。

 県警の池内本部長は25日の会見で、「西山さんに大きなご心労やご負担をおかけしたことに対し大変申し訳なく思う」と述べた。地裁判決について「滋賀県の主張が認められていない部分はある」としつつ、「原告(西山さん)のご心労やご負担にも思いを致した」と控訴断念の理由を説明した。

 西山さんへの直接謝罪について報道陣から問われると、県警は「今後適切に対応していく」と答えるにとどめた。

 再審無罪を受けた今回の訴訟だったが、県は21年9月に「(患者を)心肺停止状態にさせたのは、原告(西山さん)である」との書面を提出。三日月大造知事が「極めて不適切」と謝罪し、滝沢依子県警本部長(当時)も県議会で謝罪した。だが、その後も、捜査の違法性を一貫して否定していた。

 三日月知事も25日、報道陣の取材に応じ、「控訴しないということは、違法性を認めるということ。長い間、西山さんにはご心労、ご負担をおかけした。判決の内容を精査し、これ以上長引かせることがないように判断させていただいた」と話した。

 弁護団長の井戸謙一弁護士は朝日新聞の取材に対し、控訴断念を評価しつつ、「県と県警は本当の意味で反省しているのか。再審、訴訟を通して一貫して『捜査に違法性はない』と主張してきた認識が変わったかは、本部長の言葉からは読み取れない」と語った。

 西山さんは04年、警察の取り調べに対し、患者の人工呼吸器を外したと「自白」したとして逮捕された。殺人罪で懲役12年の判決が確定し、服役した。大津地裁の再審で20年、患者は病死の可能性があり、「自白」も誘導されたとして無罪判決を受け、確定していた。

 西山さん側は同年、捜査の違法性を問うため国と県を提訴。今月17日の大津地裁判決は、取り調べを担当した男性警察官が、人工呼吸器の操作について虚偽供述を強く誘導したなどと、違法性を認めた。

 また、患者が自然死した可能性を示す捜査報告書を検察に送らなかったことについても、警察が職務上の法的義務に反した判断だったとして、事案の真相を明らかにする刑事訴訟法の目的に反すると断じた。県警幹部は25日、「(捜査報告書を)送致する必要がなかったという当時の認識は誤りだった」と報道陣に説明した。

西山さんの奪われた15年、無駄にしないために

 滋賀県の控訴断念を受け、弁護団が発表した声明は下記の通り。

 本日、被告滋賀県代理人弁護士から当弁護団に対し、さる7月17日に大津地裁(池田聡介裁判長)が言い渡した湖東記念病院事件国賠訴訟判決に対し、控訴しない旨の通知がなされた。

 更に、本日、滋賀県警本部長は、記者会見において、上記判決に対して控訴しないことを表明した。滋賀県警本部長は、記者に対し、「判決を重く受け止め、控訴しない意向といたしました。西山さんに対して、大きなご心労、ご負担をかけたことを大変申し訳なく思っている」と説明したとのことである。

 被告滋賀県は、上記国賠訴訟において、一貫して滋賀県警の捜査に違法はなかったと主張し続けた。県警本部長の上記説明では、捜査に違法があったことを認めたのかどうか判然としない。しかし、被告滋賀県が控訴を断念した以上、被告滋賀県は、上記判決における裁判所の認定判断、すなわち、本件で西山美香さんに対して行われた取り調べが違法であること、重要な証拠を検察官に送致しなかったことが違法であることを受け入れたものと理解するしかない。被告滋賀県は、そのことを明確に認めるべきである。そして西山美香さんに対して直接謝罪するとともに、本件の捜査の経緯を自ら検証し、再発防止の対策をたてるべきである。それをして、初めて、西山美香さんが奪われた15年を無駄にしないことにつながる。

 西山美香さん及び当弁護団は、上記判決に対しては、結論として取り調べの違法を認めたものの、西山美香さんに対するマインドコントロールの主張に対する判断を回避したことについては不当であると考えている。しかし、被告滋賀県が控訴を断念するのであれば、当方からも控訴することは控え、滋賀県との訴訟は終息させることとする予定である。

 西山美香さん及び当弁護団としては、被告国に対しては控訴し、検察官の起訴等の違法の主張について、改めて大阪高裁の判断を求める方向で検討していることを申し添える。

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