「正しい情報をすくい上げる」 挿絵・福田美蘭 現代社会をイメージした作品を毎月掲載します。

■論壇時評 政治学者・谷口将紀

 今月は、昨年の兵庫県知事選で顕在化した、マスメディアとSNSの相克に関する論考が多く見られた。この問題を継続的に報じているTBS「報道特集」キャスターの村瀬健介は、YouTubeで発信された斎藤元彦知事や立花孝志氏を応援する一部の動画が、視聴回数による収益を目的としていた点を指摘する(①)。そうした動画を、特に斎藤氏を支持していない学生がすきま時間のアルバイト感覚で制作していた例を、本人への取材で生々しく紹介する。

デマ拡大の背景にはメディアの姿勢

 同番組編集長の曺琴袖(チョウクンス)は、SNSでデマや誹謗(ひぼう)中傷が拡大した背景として、選挙前には取材の労力を惜しみ、百条委員会の県職員アンケートのみを安易に情報源として面白おかしく報じた過熱報道が、選挙戦中には特定候補に関する報道を控える「前例」に漫然と従い続けたマスメディアの姿勢があると、自戒を込めて述べる(②)。

 曺の見解は、選挙に関する報道・評論の自由は公職選挙法で広く認められており、虚偽や事実の歪曲(わいきょく)がない限り、結果として特定の政党・候補者に利益をもたらしたとしても問題ないとする日本新聞協会声明とも一致する(③)。来たる参院選で、報道のあり方にいかなる変化があるか注視したい。

谷口将紀さんによる月1回の「論壇時評」の第3回です。今回は、選挙で問われる報道の姿勢から、8月に開かれるアフリカ開発会議(TICAD)の意義まで、計13個の論考を紹介します。

 他方で留意すべきは、ジャーナリズムによる権力監視の重要性を認めながら、それが常に機能する前提自体が過信だとする、メディア史研究者佐藤卓己の指摘である(④)。不正確な情報が混在することは避けがたく、その真偽の曖昧(あいまい)さに耐える姿勢、不要不急の情報を意識的に受け流す「ネガティブ・リテラシー」の重要性を説く。

 また編集者の若林恵は、第2…

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