労働災害で亡くなった人の配偶者らに支払われる遺族補償年金について、支給要件に男女差を設ける労働者災害補償保険法は、法の下の平等を定めた憲法14条に反するとして、滋賀県内の30代の男性が19日、国による不支給処分の取り消しを求め、大津地裁に提訴した。
訴状などによると、男性の妻(当時30代)は県内のクリニックに医療事務職員として勤務していたが、2023年5月に自ら命を絶った。
大津労働基準監督署は今年1月、業務のなかで上司のパワーハラスメントなどで精神障害を負ったことが原因だったとして労災認定した。これを受けて男性は遺族補償年金を請求したが、大津労基署は不支給とした。
1965年にできた遺族補償年金制度は、夫の死が労災と認められた場合、妻は年齢に関係なく遺族補償年金が支給されると規定する。一方で、妻が死亡した場合、夫は55歳以上でないと支給されないと定める。
原告の男性は妻が亡くなった後、未就学児2人を育てている。これまで夫婦はフルタイムで働き、家事も分担していたが、今は男性が子どもを保育園に送迎し、家事もすべてこなす。時短勤務をせざるを得なくなり、収入も3割減った。
「子どもを連れて妻の後を追おう」と考えたこともあったが、親族や友人に支えられ、なんとかこの2年、やってこられたという。
男性は「現在の制度は古い価値観に基づいて設計されていて、現代の家族構成に合っていない。私の訴えが制度改正のきっかけになれば」と願う。
遺族補償年金制度ができた後、女性の社会進出で共働き世帯が増え、非正規雇用の増加で就労の不安定化も進んだ。支給要件の男女差をめぐる訴訟も各地で起きている。
2011年には、中学教諭だった妻を亡くした堺市の男性が「受給資格の男女格差は違憲」として提訴。13年の大阪地裁判決は「(規定は)性差別にあたり違憲」としたが、15年の大阪高裁判決、17年の最高裁判決はいずれも「合憲」と判断した。
昨年になって東京地裁で、今年7月には仙台地裁でも同様の提訴があった。
一方で、厚生労働省の研究会は今年7月、支給要件の男女差について「就労状況や家族の在り方が変化していることも踏まえ、解消すべきだとの点で意見は一致した」とする中間報告書をまとめた。
今後、厚労省の労働政策審議会で労使が議論し、来年の通常国会での改正法案提出をめざすとしている。
原告代理人の古川拓弁護士は「法改正の動きを注視しつつ、制度は違憲状態にあること、原告のように今苦しんでいる人たちが誰も置き去りにされず救済されるべきだということを法廷で訴えていく」と語った。