練習に打ち込む吹奏楽部員たち=2024年4月26日、山形市の山形中央高校、オザワ部長撮影
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 「もう一度――」

 山形県立山形中央高校(山形市)の吹奏楽部長で、トロンボーンを担当する渡辺真衣(3年)は練習場「合奏室」に入るたび、その言葉が頭をよぎる。

 合奏室には様々な言葉が書かれた貼り紙がある。今年度の目標である「挑(いどむ)」や伝統の部訓「ブレンド・バランス・ハーモニー」、さらには「いつも本番」「返事」「一位になるしかない」などだ。

 中でも真衣の視線を引きつけるのは、指導する顧問、佐藤誠基教諭の背後に大きく書かれた「全国大会金賞」の文字だ。

 それは、真衣が「かつて経験したもの」であり、また「一度も経験したことがないもの」でもあった。

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 真衣がトロンボーンに出会ったのは小3の秋だった。地元小学校の金管バンドで、主に行進やパフォーマンスをしながら演奏するマーチングに熱中した。自然な流れで中学校でも吹奏楽部に入った。

 「動かないで、座ったまま演奏するなんて楽しいのかな?」

 真衣は最初、動きのない座奏のスタイルに戸惑いを覚えたが、やってみると座奏のおもしろさにどっぷりハマってしまった。

 真衣が通った山形市立第六中学校は東北大会の常連校で、全日本吹奏楽コンクール(全国大会)にも出ていた。

 真衣は中1で50人のコンクールメンバーに選ばれ、全国大会では銀賞を受賞した。

 中2のときはコロナ禍でコンクールが中止となったが、中3では再び全国大会に出場。見事に「全国大会金賞」を達成し、歓喜の瞬間を味わった。

 県内の強豪として知られ、全国大会に出場歴がある山形中央高。真衣が尊敬する山形六中の先輩たちも何人か所属していた。

 「高校は山形中央しかない! ほかの選択肢はない!」。進学先を決めるとき、真衣に迷いはなかった。

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 「大好きな先輩と一緒に全国…

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