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 気候変動や都市化の影響で、毎年のように災害級の暑さが襲う日本列島。熱中症で救急搬送された人は昨夏10万人に迫り、高齢者ばかりか子どもも命を落としている。教育現場は対策を進める一方、運動時間の確保に苦慮している。

 気温や湿度の高さに加え、運動で体温が上がったり、体調が悪かったりする時に起きやすくなる熱中症。厚生労働省によると、死者は2018年以降、21年を除いて1千人を超え、昨年は過去最多となる2033人(概数値)にのぼった。

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独自の熱中症対策について説明する北九州市教育委員会生徒指導課の山中孝一課長=2025年5月14日、北九州市、赤田康和撮影

 総務省消防庁の調べでは、救急搬送された人数も増加傾向にあり、24年5~9月は計9万7578人に達し、調査を始めた08年以降最多だった。

 搬送された人を年代別でみると、65歳以上の高齢者が6割近い約5万6千人を占めるが、18歳未満の子どもも1割弱の約9千人いる。

 発生場所別では、住居が約3万7千人と最も多く、道路が約1万9千人と続く。小中高校などの教育機関も約4千人いた。

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熱中症救急搬送の人数
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熱中症の年代別搬送人数

 熱中症対策のため、危険度を判断する指標が「暑さ指数(WBGT)」だ。人体と外気との熱のやりとりに与える影響の大きい、①湿度②日射・輻射(ふくしゃ)などの熱環境③気温、の三つを組み合わせている。

 気象庁と環境省は、暑さ指数が33以上になると予測した場合、全国を58に分けた区域単位で「熱中症警戒アラート」を、35以上になると予測した場合は、都道府県単位で「熱中症特別警戒アラート」を発表し、注意を呼びかける。

 また、運動時の熱中症を防ぐために、日本スポーツ協会は、暑さ指数に基づいた予防指針を作成。28以上は「激しい運動や持久走など体温が上昇しやすい運動は避ける」、31以上は「特別の場合以外は運動を中止する」などとしている。

 ただ、対策は十分とは言えない状況だ。同協会が昨年、協会公認の指導者約1万人を対象に熱中症対策について調べた。「水分補給」はほとんどの指導者が実施していたが、「活動時間の変更」「身体冷却」は半数弱だった。

 また、体を暑さに慣らす暑熱順化にかかる期間は、同協会はガイドブックで「5日間を要する」としているが、「1~2日」とする指導者が多かった。選手の健康チェックを「毎日実施」は約5割にとどまった。

 この調査結果を踏まえ、スポーツ庁は今月、自治体やスポーツ団体の担当者に熱中症対策として「暑熱順化」「大会の開催時期や時間帯の変更」「健康チェック」などに取り組むよう依頼する文書を送った。

北九州市が新ルール 運動時間確保に課題も

 熱中症対策と運動する機会の両立に、現場は頭を悩ませている。

 北九州市では昨夏から、暑さ指数が33以上になると予測された場合、市立の小中学校など197校で、体育や部活動、屋外での遊び、冷房のない特別教室での授業を、全市で一斉に中止している。

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熱中症予防のポイント

 山形県で23年、部活動を終え帰宅中の女子中学生が、熱中症とみられる症状で死亡した事故を受け、市の熱中症対策ガイドラインに、新ルールを盛り込んだ。

 各学校では教職員が朝、環境省のLINEで、その日の暑さ指数の予測を確認。午前7時時点で33以上になれば、体育や部活動を中止する。

 市のガイドラインでは、予測値が33以上にならなかった日でも実測値が31以上なら、原則運動は中止と定めている。

 市教育委員会によると、新ルールを導入した結果、市立学校での熱中症が原因とみられる救急搬送が23年の23人から、昨年は17人に減った。特に8月は23年の5人から、昨年はゼロになったという。

 ただ、体育や部活動の時間を…

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