Smiley face
写真・図版
「メディアミックスの悪魔 井上伸一郎のおたく文化史」(星海社新書)。表紙はガンダムと仮面ライダーとウルトラマンをあしらったイラスト(by CLAMP)

 あれぇ「妹ぱらだいす!」に触れないの? 期待は失望に変わりました。

 副社長まで務めたKADOKAWAを離れて間もない井上伸一郎さんが回顧録「メディアミックスの悪魔 井上伸一郎のおたく文化史」(星海社新書)を先月出しまして、プロローグを見ると2010年12月初め、角川書店社長(当時)として東京都青少年健全育成条例改正に反対し「東京国際アニメフェア」(←都知事が実行委員長)のボイコットを表明する場面だったので、私は期待しました。3年半後の2014年5月、KADOKAWA発行のマンガ「妹ぱらだいす! 2 ~お兄ちゃんと5人の妹のも~っと!エッチしまくりな毎日~」が「近親相姦(かん)を不当に賛美している」として条例の「新基準」適用第1号になったことについて、井上さんが思うところを述べるんだな、と。

 でも結果はスルーで、初適用の件は出てきません。「また沈黙か」とガッカリしました。というのも当時、不健全図書指定を受けてすぐKADOKAWAは「妹ぱら2」を書店から回収、IR広報部は私の取材に「社として見解やコメントを出す予定はない」と回答。新基準のあいまいさや指定理由の問題点は記事で指摘しましたが、腑(ふ)に落ちない点が残りました。新基準にひっかからない(適用すべきでない)と考えて本を出したならなぜ異議を唱えない? 他ならぬKADOKAWAが新基準をよく知らずに出した? まさか! じゃあ、なぜ……。

 実際のところ、争う余地はあったと思います。だってストーリー全体が近親相姦を「よくないこと」として描いてないから条例の定める「不当に賛美・誇張する」に当たると、都青少年・治安対策本部総合対策部の担当課長(当時)が取材で言ってのけたんです。都のパンフレットには「直接的に強姦や近親相姦などを画像で描写・表現したものであっても、そのような行為を『不当に賛美し又は不当に誇張するように』描写・表現していない限りは対象になりません」と書いてあったのに、これでは歯止めが歯止めになりません。

 「よくないこととして描いて…

共有