Smiley face
写真・図版
金精軒の店頭に並ぶ「極上生信玄餅」と小野光一社長=2025年1月8日、山梨県北杜市白州町台ケ原、豊平森撮影
  • 写真・図版
  • 写真・図版
  • 写真・図版
  • 写真・図版
  • 写真・図版

 南アルプス・甲斐駒ケ岳のふもと、名水で知られる山梨県北杜市白州町にある台ケ原宿はかつて、甲州街道の宿場町として栄えた。

 金精軒は旧街道沿いに構える和菓子店だ。木造総2階建て。江戸時代の1852年に建てられ、明治中期までは旅籠(はたご)だった。古い民家や酒蔵も点在する情緒ある町並みだ。

 2006年ごろ、取引先の問屋が「梨北(りほく)米」のもち米を使ってほしいと持ち込んできた。地元ブランド米で値が張る。それでも小野光一社長(72)は「地元産」の魅力に、100キロを製粉して試してみることにした。

 工場では南アルプスからの伏流水を使っている。もち米粉だけを機械で蒸し上げると出来栄えに驚いたという。「餅の色は真っ白。透明感があってつやつや。ふわふわで米の甘みがしっかりある。のどごしもいい」。食材の良さを生かした新商品を作りたい。「既存概念にとらわれてはだめだ」と試行錯誤が続いた。

 思い出したのが、かつて和菓子職人から聞いた言葉だった。「信玄餅の原点は安倍川餅にある」。信玄餅の由来は諸説あるが、「安倍川餅のスタイルでやってみよう」とひらめいた。

 一口サイズに切り分けた従来の信玄餅と差別化し、大きめの丸形にした。「安倍川餅のように、お菓子というよりは食品に近付けたかった」

 餅の味を前面にと、思い切って砂糖の量を従来の半分にした。もち米粉の比率が高まり原材料名の最初に書けてアピールできる。半面、原価は高くなり大きな冒険だった。

 また、砂糖が少ないと日持ちしにくくなる。防腐剤や合成保存料は使わないため、消費期限は販売から最大3日間となった。その特徴から「極上生信玄餅」と名付けた。

 2010年。こだわりの自家焙煎(ばいせん)の黄な粉と黒蜜を付けて、最初は台ケ原店限定で販売した。1日に5個入り10パック程度。まずは地元の人たちに食べてほしかった。「信玄餅はお土産として有名。でも、地元の人たちが食べる機会は少なかったですから」

 数カ月後、店にかかってきた電話をとった。「東京へのお土産に持って行きたい。3パックとっておいてほしい」。消費期限が短くても、お土産になると気付いた。「本当に好きな物なら、大切な人と一緒に食べたいですよね」

 認知度は徐々にあがり、20年にできたJR甲府駅改札口横の直営店でも販売。生信玄餅は主力商品の一つになった。

 小野社長はこれまで、近くの酒蔵の酒かすを使った「大吟醸粕(かす)てら」や、「30分以内に食べて」という夏季限定の「水信玄餅」などを開発。海外でも紹介され、訪日外国人も訪れるようになった。

 「和菓子もイノベーションは大事。選ばれる田舎になるために世界に発信し、和菓子屋の概念を覆していきたい」

     ◇

〈金精軒〉1902(明治35)年創業。49年に法人化。直営の台ケ原店、韮崎店、甲府駅店のほか、主に山梨県内で販売。オンラインショップ(https://shop.kinseiken.co.jp/別ウインドウで開きます)もある。年商9億9千万円。従業員約120人。「極上生信玄餅」は4個入りで1080円(税込み)。

共有