今年、創設から90周年を迎えるプロ野球・阪神タイガースが近年、独立リーグとの連携を積極的に進めている。その背景には、急速に進む野球人口減を少しでも食い止めたい、という思いがあるという。球団の嶌村聡本部長に、独立リーグとの連携、野球振興に対する考えを聞いた。
――球団として野球振興に力を入れています。きっかけは。
「NPB(日本野球機構)の理事会・実行委員会に理事・実行委員として関わっていく中で、少子化のペース以上の勢いで野球競技者人口が減少傾向にあることを目の当たりにしたのが一番大きいです。阪神として、特に関西地方で意識を上げてやっていきたい思いが2、3年前から湧いてきました」
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「野球の普及・振興事業は見えにくい。ただ、これをゼロにした場合、10年後はどうなるのか。直近10年間で40%以上の中学の軟式野球部生徒が減少しているとも言われています。日本の野球を支えるファンの減少、野球関連ビジネスマーケットの縮小、野球界の衰退につながる。だからこそ野球振興を一歩一歩積み重ねて、10年後どうなっているかを考えていきたいです」
――今年1月1日付で野球振興室を設置しました。
「事業本部内にあった振興部を独立させ、普及・振興事業に機動性を持たせました。球団本部長である私が室長を兼ねることで、社内的には非常にスピード感を持って対応できます。普及・振興活動は本拠地内、本拠地外、社会貢献を3本の柱で考えています」
――独立リーグとの関わりは。
「大きなアプローチは2年ぐらい前から始めました。前提としてNPBに『ファーム拡大構想』という考えがあり、新規2球団が昨季からファームに参加した際に、野球の発展と振興というミッションがありました。野球界をピラミッド型で考えた時に(一番上の)1層目を1軍12球団、2層目を2軍の12球団と新規球団で活性化を図る。そして3層目にNPBの3軍を持つチームと独立リーグ球団です」
「特に独立リーグ球団は、プロ野球本拠地以外の空白地域に展開されています。協力することで、ファンの拡大や競技者の発掘の可能性を秘めていると考えました。阪神が関わることで、今まで野球に興味のなかった方の興味も少し出てくる可能性がある。独立リーグ球団の方の励みや競技者レベルの向上にもつながってくるのではと考えています」
――野球振興の成果はすぐ数字に表れにくい。
「1年単位ではなく、少なくとも5年または10年単位で測っていくべきだと考えます。球団経営も同じ。創立90年が経ちますが、経営が苦しい時代もありました。その時々の時代の方々の頑張りで今がある。長期的な視野を持ってやっていく必要があると考えています。阪神は2023年に優勝しました。この10年で1位が1回、2位が4回、3位が3回。次に乗り出すのは振興面でしょう」
――選手発掘の意図もありますか。
「当然あります。間近でプロのレベルを感じるとともに、試合が球団編成部に見られていることで励みになる選手もいると思います。やる気も出て、さらに練習もしてプレー価値が向上することでファンも増えるでしょう。競技者レベルの向上、独立リーグからの獲得も視野に入れているのは事実です」
――独立リーグ・石川へ元選手の岡崎太一さんを監督として派遣しています。
「現カープの藤井(彰人)ヘッドコーチが15年限りで引退した際、社会とつながった上でコーチをしてもらう必要があると考え、福井球団の社長に相談し、うちに籍を置きながらコーチとして福井球団に派遣したのが始まりです」
「セカンドキャリアという点や指導者として段階を踏んでほしいこと、そこで社会とつながる意味合いもあります。もう一つ、独立リーグ球団にとって監督コーチの人件費は経営の大きな部分を占めていて、コーチ派遣は独立リーグ球団の人件費を下支えする面もあり、支援という意味にもなります。今、石川球団で岡崎が監督として2年目を迎えていますが、監督としての派遣は彼が初めてです」
――5月27日、独立リーグの連合チームを甲子園に招き、交流試合を実施しました。
「今までも(昨年まで2軍施設だった)鳴尾浜に来てもらったことはあります。今回は甲子園が使える状況で、独立リーガーの励みにもなるだろうと。これらも平田勝男2軍監督の理解があるからこそ。四国への遠征もバス移動を嫌がらず、ファンサービスも選手と一緒に行う。それを大事な仕事だと考えている。そういう姿を他のコーチ陣も見て、影響を受けます。1軍ではなかなかできないことですが、ファームはそうあるべきだと思っています」
――新しく考えていることもありますか。
「中学校部活動の地域移行の問題で何かお手伝いできることがあればと考えて動いています。キッズボールフェスタなど、日本高校野球連盟とNPBが行っていることを球団としても協力したい。個人的には、広島球団が広島県高野連と行っていたマネジャー向けなどのアナリストの研修を兵庫県高野連ともできたらと思っています」