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 将棋の金井恒太六段(38)は現在、通算18期目の順位戦を戦っている。3期目の初昇級、15期続いている停滞、終局が午前4時を過ぎた名局、降級点……。2018年には、新しいタイトル戦となった叡王戦で決勝七番勝負に進出したが、タイトル獲得には至らなかった。今期のC級1組では開幕4連敗と白星から見放され、降級の窮地に立っている。8日の飯島栄治八段(45)戦の前にインタビューをした。

 好きだった曲を弾くこともなくなった。

 12歳の時、連続ドラマ「WITH LOVE」で流れていたピアノ曲「Once in a blue moon」。将棋と出会う前からピアノを習っていた金井恒太は、優美さと憂いが重なるような感傷的なメロディーを時々弾くようになった。

 大人になり、同時に棋士になってからも、時折思い出しては鍵盤に向かった。あの曲を弾いている間は盤上から遠く離れた場所に行くことができた。「Once in a blue moon」。訳すと「滅多にないこと」。青い月は希少性の象徴として示されている。

 1986年、ティンパニ演奏に親しむ父とピアノ講師である母の子として音楽の都ウィーンで生まれた。両親の素養を受け継いだのか、絶対音感に近い感覚を持っている。

 街を歩いている時、百貨店にいる時、耳に入るメロディーを美しいと感じると、ピアノに向き合ってから記憶だけに頼りに再現する。

写真・図版
金井恒太六段。ライトアップされた東京体育館を背に=2024年10月4日午後6時6分、東京都渋谷区、北野新太撮影

 「ピアノを演奏する機会からは遠ざかってしまいましたけど、今でも道を歩いている時、ああ良い曲だなあ、自分に弾けるかなってイメージすることはあります。ピアノのレッスンでも行う『聴音』というのですが、なぜか自分は得意でした。足音や拍手とかはちょっと難しいですけど、グラスがキィンと鳴る音とかの音程は分かります」

 でも今は「Once in …

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