もう後がなかった。
16日、陸上の世界選手権(世界陸上)東京大会、男子走り高跳び決勝。
バーの高さは、2メートル31。
2024年パリ・オリンピック(五輪)の金メダリスト、ハミシュ・カー(29)=ニュージーランド=はすでに2回失敗していた。
3回目、観客席へ大きく手拍子を求めた。「力を送って」と。
拍手に包まれる中、スタートを切った。フワリと浮かんだ体が、バーを越える。成功。起死回生の跳躍を見せると、続く2メートル34も3回目でクリア。最後は2メートル36を跳んで、金メダルをつかんだ。
「最後の最後まで闘いをやめなかった。声援のおかげだ」
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ニュージーランドの南島東部、クライストチャーチで育った。
小さい頃はラグビーやサッカーも経験したが、やがて「過去の自分と闘う」という陸上の個人種目の面白さに気づいた。
特に魅力的に映ったのが、走り高跳びだ。身長1メートル98という長身がこの種目に向いていた。何より、設定された高さに体一つで挑んでいく。そんな「生き様」がカッコよかった。
「失敗できる」思考法
ただ、決してエリートではない。
アスリート一家に育ったわけではなく、父は心臓が専門の医師で、母は言語聴覚士。「きょうだいが3人いるけど、医者、弁護士、サイバーセキュリティー関連の仕事をしている。不思議な一家だよね」と笑う。
歩みも順風満帆とはいかなか…