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韓国の尹錫悦大統領が出したが、のちに撤回した「非常戒厳」をめぐる事態を受け、国会議事堂前に集まった人々の中には寒さに耐えながら抗議の意思を示す人の姿が見られた。ボードには「内乱行為 即時捜査」「尹錫悦は辞退せよ」などと書かれている=2024年12月4日、ソウル

記者コラム 「多事奏論」 編集委員・高橋純子

 「できるかな?」

 「できますね」

 過日、東京・丸の内。眼下に皇居の暗闇をとらえながら、年下の女性と日本酒を酌みかわしつつ話題にのぼったのは、韓国のトチ狂った「非常戒厳」、それに対し、「銃を下ろしなさいよ! 恥ずかしくないの?」と戒厳軍の銃をつかんで抗した野党の女性報道官のこと。自分も「いざ」という時、あんなふうに行動できるだろうか? 私が「拷問は嫌だけど、その場で撃たれる分には大丈夫だと思う」と言うと、彼女は「わかる!」。じゃあどんな拷問が一番嫌か?に話はうつり、彼女は爪をはがされること、私は水責めという結論を出したころには揚げ出し豆腐が冷めていた。

 自分だったらどうしたか。なにができたか。そう自問自答する日々が続いている。「非常戒厳」にすばやく、敢然と立ち向かう韓国の市民、国会議員らの姿を目の当たりにしてからずっと。

 1980年、民主化を求める学生や市民を戒厳軍が鎮圧し、多数の犠牲者を出した光州事件の記憶。民主主義を自分たちで闘い取った経験。「非常戒厳」をわずか数時間で撤回に追い込んだパワーの淵源(えんげん)についてはさまざま解説されていて、それにいちいちうなずきつつも私の脳内でぱちんとはじけたのは、哲学者・鶴見俊輔の「反射」という言葉だった。

 先の大戦に際し、日本は間違…

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