大屋根リングを眺める高村薫さん=大阪市此花区、滝沢美穂子撮影

 開幕から1カ月を迎えた大阪・関西万博。開幕前に「心が躍らない」と話していた作家の高村薫さん(72)が現地を訪ねた。7パビリオンを回り、歩数は2万5千歩超。気候変動対策に貢献する新技術に興奮しつつも、「寂しさを感じる」とも語った。その真意とは。

 会場を訪れたのは先月25日。「新しい技術との出会い」を期待した高村さんは、NTTのパビリオンで3人組ユニット「Perfume(パフューム)」のライブの3次元映像に魅了された。

 4月2日にあった実際のライブを空間まるごとデジタル化し、NTTの次世代通信基盤「IOWN(アイオン)」を使ってライブ会場から25キロ離れた万博会場に伝送した。伝送した映像やデータを全て記録し、再現している。3人のダンスによる会場の振動まで体感できる。

NTTパビリオンを訪れた高村薫さん=大阪市此花区、滝沢美穂子撮影

 IOWNに以前から注目してきたという高村さんは「日本発の新しい通信技術が従来の時空の概念を変えようとしている。娯楽産業でも活用できそう」と語った。

 「これぞ万博」と高村さんが興奮したのは、パビリオン「未来の都市」。万博内で最大規模を誇り、日本国際博覧会協会と12の企業・団体が、気候変動対策に貢献する新技術などを公開している。

 商船三井は、開発中の未来の船「ウインドハンター」の大型模型を展示している。軽くて硬い素材、ガラス繊維強化プラスチックで造られた高さ約90メートルの巨大な帆が特徴だ。巨大な帆は海上の風を捉えて船を推進するだけでなく、風力発電をし、その電気で水素を製造・貯蔵する。

 石油を主な燃料とする船舶による輸送で、温室効果ガスの排出を減らそうと、同社は帆を補助動力とする船「ウインドチャレンジャー」をすでに就航させている。

 水素の製造・運搬をも可能にするウインドハンターはその進化形で、2030年代の就航をめざしていると担当者に説明され、高村さんは「新たな未来をリアルに体感できた。私が生きている間に実物を見られるかも」。

未来の都市パビリオンのクボタのブースでクイズに挑戦する高村薫さん=大阪市此花区、滝沢美穂子撮影

 農業機械メーカーのクボタは、車体の高さや幅を変形させることで、耕作から除草、収穫のほか農地の整備まで多様な作業を1台で担う未来のロボットを展示しており、「実用化されるのが楽しみ」と語った。

 温室効果ガスの排出などによる地球環境への負荷を抑えながら、収穫量を確保し続けるにはどうしたらいいか。未来の農業を学ぶゲームもあり、高村さんも参加した。

 「生産者と消費者がどんな選択をしていくべきかを考えさせられる。若者が農業に関心を持つきっかけになるのでは」

 会場内では、自分の重心移動だけで操縦できるホンダの着座型の次世代乗り物「UNI-ONE」にも試乗した。「私のような高齢者には速度の制御が難しいと思ったが、実用化が大いに楽しみ」と感想を語った。

乗る人の重心移動に応じて動く車に乗る高村薫さん=大阪市此花区、滝沢美穂子撮影

 パビリオン「三菱未来館」では火星や深海を旅する映像を通じて紹介された火星の最新の知見に興味を抱きつつ、「映像をもっと作り込んでほしかった」と注文した。

 9府県が出展する「関西パビリオン」も訪ねたが、「各地の魅力を発信しきれず、観光案内でおわっている。自治体の財政事情もあるのかもしれない」と語った。

日本が高度経済成長を遂げた1970年の大阪万博もリアルタイムで体験した高村さん。今回、勢いのある中東諸国やロシアの侵攻を受けるウクライナの展示を見て、感じたことがありました。記事の後半で紹介します。

 今回の万博で高村さんはパビリオンの建築デザインも楽しみにしていたが、大屋根リングから眺めた感想は「こぢんまりしている」。

 実際、各パビリオンの高さは…

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