医療費の患者負担に月ごとの限度を設けた「高額療養費制度」の見直しについて、福岡資麿厚生労働相は14日、長期間の治療が必要な人の負担増を見送る考えを表明した。限度額の引き上げ案に対しては、がん患者らから不安の声が上がり、国会でも厳しい議論が続いてきた。
福岡氏はこの日、がん患者らとの面会後、記者団に「長期にわたって治療を継続される方々に最大限寄り添う必要があると判断した」と述べた。
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制度には、月ごとの限度額に加え、長期の治療を受ける人向けの「多数回該当」という仕組みがある。直近12カ月以内に3回以上、限度額に達した場合に、4回目から限度額が引き下げられる。2025年8月から27年8月にかけて、3段階での引き上げを想定していたが、これを見送る。
最終形の27年8月には「年収約650万~約770万円」の中間層で3万2400円増の7万6800円になる予定だったが、現行の4万4400円に据え置く。
制度全体の見直し方針は維持
政府は昨年末に高額療養費制度全体の限度額の引き上げを決定。新年度の当初予算案にも盛り込んだ。だがこの引き上げについて、がん患者らが反発。特に子育てと治療を両立する現役世代にとっては負担が重すぎると訴えた。国会では立憲民主党が引き上げ「凍結」に向けた予算修正を求めるなど、風当たりが強まっていた。
政府は「多数回該当」の引き上げは見送る考えを示す一方、制度全体の見直し方針は維持する。医療費の高騰に伴い増える現役世代の保険料負担を軽減する必要性や、子ども関連政策の財源確保の観点から、全体の見直しは避けられないと判断した。福岡氏は「制度を将来にわたって堅持するためにも(全体の引き上げは)必要」と指摘した。
政府の試算では、修正前の高額療養費制度の見直しで保険料は最終的に年3700億円規模で軽減される。加入者1人あたりの保険料の軽減効果は、年額で1100~5千円程度とみられる。
「負担軽減されないとただちに命に影響」
全国がん患者団体連合会の天野慎介理事長は会見で「長期にわたり治療を受ける患者にとっては、負担軽減がされないとただちに命に影響する。多数回該当の維持の方針が決まったことは率直に感謝したい」と述べた。一方、制度自体の引き上げについては「引き上げ幅がかなり大きい。また、決定プロセスに問題があり、いったん凍結を求めざるを得ない。国民に負担を強いる以上、総理ご自身の決断を改めてお願いしたい」と訴えた。
高額療養費制度は、大きな手術や高額な薬剤利用などで医療費の支払いが膨らんだ際、月ごとの自己負担を所得に応じた限度額に抑える仕組み。政府の当初案では、引き上げは27年8月までの3段階で、第1段階の今夏には現行の所得区分ごとに2.7~15%増額する。