公的な医療保険の「セーフティーネット」とも言われる「高額療養費制度」。医療費が高額になったときに、患者が負担する金額に上限を設ける仕組みですが、政府の限度額「引き上げ」案に対し、患者団体や野党から猛烈な反発が起こり、最終的に見直しの「見送り」が決まりました。そもそも政府が見直しに着手した背景には何があるのか。今後の議論に求められる視点は何か。厚生労働省の社会保障審議会長で、学習院大学長の遠藤久夫さんに聞きました。
避けられぬ負担の議論
公的な医療保険制度には、所得にかかわらず公平に医療が受けられるよう、患者の自己負担を軽くする二つの仕組みがあります。いわゆる「窓口負担」(1~3割)と、1カ月の負担上限額を定めた高額療養費制度です。この二つが、風邪など通常の受診でも大きなけがや病気の時でも、支払いを一定に抑えています。
一方で、医療技術が進歩して医療費は高額になり、高額療養費の上限額を超えるケースが増えています。すると、医療費の中で、患者が自己負担しない「保険給付」の割合が上昇します。これは現役世代を中心に保険料が上がる要因となります。給付が増える中では、負担の議論は避けられません。
保険料の上昇を抑えるため、これまでも高額療養費の上限額を引き上げてきました。今回もその流れに沿うものです。昨年末に示された改定案は、所得に応じた上限にするため区分を細かくしたり、激変緩和措置として3段階の改定にしたりと、政府の配慮はうかがえます。
ただ、患者団体などが強く反…