Smiley face
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アジアン・カンフー・ジェネレーションの後藤正文さん

 オンラインカジノに関するニュースをいくつか読んで、考えを巡らせている。

 東日本大震災の数カ月後、微力でも役に立ちたいと被災地へ支援に出かけた。海岸部は広く津波で被害を受けていたが、海から離れた場所は比較的に平穏で、復興に向けた工事が進んでいないような地域でも、街道沿いのパチンコ店は盛況の様子だった。なんとも言えない気持ちになったことを覚えている。

 そのなんとも言えない気持ちを、あれから随分経った今、言葉にしてみたいと思った。

 はっきり言えば、とてもショックを受けた。震災直後、エンタメとしての音楽は不謹慎だとされた。大きな災害のただ中にあって、ライブハウスでの演奏すら許されないような空気があった。歌など何の支援になるのかという葛藤や逡巡(しゅんじゅん)を抱えたまま、誰かの救いになればと願って、炊き出しだけでなく演奏に出かけた。しかし、自分が普段から胸に抱えていた、音楽のみならず様々な表現物が社会を豊かにするはずだという自負は思いあがりで、娯楽としてパチンコの足元にも及んでいないのではないかと落ち込んだ。

 反発したい気持ちも湧き上がった。パチンコと音楽を比較して優劣をつけたいというわけではなく、音楽を作り文章を書く者として、人々の余暇を音楽や文学の面白さで満たすような機会を、いろいろな場所で作りたいと思った。

 ギャンブル依存症に苦しむ人が多いという記事も件(くだん)のニュースに併せて読んだ。オンラインカジノは日本では違法で問題だが、合法のギャンブルが健康的でまったく問題がないとは言えない。音楽もクリーンかと問われればそうとは言い切れず、推し活にのめり込んで身を持ち崩してしまう人もいる。

 経済効率を是とする世の中で、様々な娯楽が単なる集金のシステムに変わり果てていないかどうか、よく見直す必要があると思う。(ミュージシャン)

 ◇毎月第4日曜日に掲載します。

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