いせはら芸術花火大会のフィナーレ。大玉があがると、会場から歓声があがった=2025年5月18日夜、神奈川県伊勢原市、染田屋竜太撮影

 連日の暑さの中、花火大会も本番。隅田川花火大会(東京)が開かれる26日だけで全国100以上の会場で花火が打ち上がる予定だ。大会の陰には、奔走するたくさんの人がいる。「音がうるさい」「燃えかすが飛んでくる」。そんな批判を乗り越え、今年も大会を成功させた関東地方の「手作り花火大会」を追った。

 ヴェルディの「凱旋(がいせん)行進曲」に合わせて打ち上げられた数十発の花火が夜空を埋め尽くす。その光が煙にかすみ、静寂が訪れた後、約1万人の来場者から拍手がわいた。

 今年で11回目、5月に開かれた神奈川県伊勢原市の「いせはら芸術花火大会」。

 「すごかったね」「来年も来よう」

 笑顔で帰途につく観覧者を見ていた大会実行委員長の柏木貞俊さん(61)はほっとした様子だった。「今年も事故なく開けて良かった」

 さかのぼること約12時間前、柏木さんはすでに会場の市総合運動公園で慌ただしく動き回っていた。

 大会は、市民や企業の寄付や協賛による「手作り」にこだわる。約15人いる実行委員会は全員ボランティア。それぞれの「特性」を生かす。

 大会初期から中心としてかかわってきた柏木さんは、「柏木牧場」を営む。コンビニ店長が物販の責任者を務め、設計士が会場配置を担当した。

 今年は雨のため直前に開催が1日延期になり、「行けない」というボランティアが続出。実行委員はやりくりに頭をひねる。

実は過去に「ボヤ騒ぎ」も……

 午後、公園駐車場に市消防本部や地元消防団の数十人が整列。柏木さんは「安全、安心に大会を終わらせるため、ご協力をお願いしたい」と丁寧に頭を下げた。

 実は、12年前の大会で火花が草に移って数メートル四方が焼けるボヤ騒ぎが起きていた。幸いけが人は出なかったが、柏木さんは「警察・消防との連携はものすごく大事。万が一何かあれば、存続自体が危うくなる」と真剣だ。

 同じ頃、開場と同時に100人近い人が入場してきた。レジャーシートを抱え、走って場所取りをする家族連れも。家族4人で初めて来たという市内の三ツ元和也さん(39)は、「打ち上げる数も色もすごいときいているので楽しみ」。

 いせはら芸術花火大会の目玉は「磯谷(いそがい)煙火店」(愛知県岡崎市)が手がける花火だ。明治20年(1887年)創業で「日本随一」ともされる色鮮やかな花火技術にファンも多い。磯谷尚孝社長は「ボランティアの方たちの熱い思いに応えなければと思っています」と話してくれた。

 以前は無料だったが、収支も厳しくなり、会場のキャパシティーも限界に近づいたため、2022年の第9回大会から完全有料化。今年は値上げも余儀なくされた。とはいえ、最も安価な「協賛席」は1人3千数百円。「市民の来やすさ」は守り抜く方針だ。

クレームに頭下げる大会会長 その心は

 本部では、柏木さんが「来場者は公園ではなく近くの駐車場を利用していただいているんですよ。申し訳ありません」。電話の向こうに頭を下げながら話す。

 「うるさい」「人混みをどうにかしろ」。これまでさんざん厳しい意見を受けてきた。大会が大きくなると「調子に乗るな」という人もいた。

 「回を重ねて、来てくれるお客さんへの感謝が増しています。私は何言われたっていいんです」と柏木さんは苦笑する。

 午後7時40分過ぎ、2千発以上の花火が上がり始める。初めは小さなものから。付近の酪農場の家畜を驚かせないための配慮だ。

 「おお」「すごい」。会場から声が上がる。およそ50分後、音楽と花火がシンクロしたコンピューター制御の「メロディー花火」でフィナーレに。

 花火が終わると、ステージでジャズ演奏が始まった。客が一斉に帰って混雑を生じさせないための工夫だ。最後の客が会場を離れるまで、実行委員は走り回っていた。

大会は終わった でもまだ仕事は残っています

 翌日、朝早くから会場には柏木さんら実行委員の姿があった。打ち上げの時に散らばる花火の破片「玉がら」の回収だ。

 前日の入場者は約1万人と判明。日程変更もあり、予想よりは少ない。収支はギリギリだった。大会後、今年も人混みや花火の音についてのクレームも入ったという。

 「何度もやめたいと思ったことはあります。でも、始めた以上、途中で放り投げられない」

 実行委員は柏木さんの同年代が多く、下の世代はなかなか入ってこない。「自分たちが離れたら大会自体なくなってしまうのではないか」というプレッシャーとも戦う。

 来年は……。「まだ考えるには早すぎます」。柏木さんは笑った。

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