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スモモ農家の角田愛理さん。OSINの会の園地巡回の日で、多くの就農者が集まった=2025年5月29日午後1時52分、山形県大江町、大谷秀幸撮影

 山形県大江町は、県のほぼ中央にある人口約6900人の町だ。新規就農者の受け入れに力を入れ、2025年版「住みたい田舎」ランキングの上位に入った。

 山形市から車で約40分。町の東側に最上川が流れ、江戸時代は最上川舟運の港町として栄えた。サクランボやラ・フランス、リンゴなど果樹栽培が盛んだ。

 スモモ畑で、日焼け対策を万全にした角田(つのだ)愛理さん(45)は、仲間やJA、県の担当者らの視察を受けていた。東京都板橋区から移住して農業を始め、4年目になる。「自然を感じながら農作業ができるのが魅力です」

 1960年に1万5千人を超えていた町の人口は、今年4月30日の集計で6989人。人口減少が止まらない。ただ、この10年あまりで角田さんを含む26人が新たに就農し、家族を含めて約70人が町に移り住んだ。人口の約1%にのぼる。

 大きな役割を果たしているのが、町の就農研修生受入協議会、通称「OSIN(おしん)の会」だ。移住して農業を始めたい人が、地元の農家から2年間研修を受ける。町がドラマ「おしん」のロケ地になったことと、大江町(O)、就農者(S)、受け入れのINから名付けたという。

 高齢化や後継者の確保に危機感を感じた農家の人たち自らが、2013年に立ち上げた。町も、手厚く支援する。たとえば、高額な農業機械を共同で管理する農機具バンクを設け、購入する場合は費用を補助する。戸建ての新規就農者住宅が5棟あり、独身者には無料の宿泊施設を用意している。空き家の物件を常時公開し、家族で賃貸住宅に住む場合は家賃と光熱費を補助する。

 ほかにも、国の規定にあてはまらない0~2歳児の保育料無料、保育園や小中学校の給食費無料、18歳までの医療費無料など、子育て支援にも力を入れる。

 東京で開かれる就農イベントでは、移住や就農を希望する人の相談に熱心に応じる。「最初は千葉の房総あたりを考えていた」という角田さんもそこで「大江町」と出会った。寒河江市での農業アルバイトを経て、OSINの会の会長でスモモ農家の渡辺誠一さん(59)の手ほどきでスモモ栽培を習得した。新規就農者は、同様にスモモ農家になった人のほか、米やブドウ、桃、リンゴ、野菜、花を育てている人もいる。

 独立後も、わからないことがあればいつでも、会のメンバーからアドバイスを受けられる。角田さんが住む地区では毎月1回ほど、それぞれ手料理1品を持ち寄っての宴会があり、地域にもとけ込むことができたという。

 会社員の夫は、移住にあたって離職を考えたが、リモートワークで勤め続けられることに。子どものアトピーやぜんそくの症状は、町に住むようになって落ち着いた。冬の時期のせんていなどを、家族も手伝ってくれる。「家族の時間も増え、移住して良かったと思っています」

 スモモのブランド化に情熱を注ぐ渡辺さんは「もっと多くの人に就農してほしいし、町に来てほしい」と話す。

 OSINの会や町の取り組みについて、県西村山農業技術普及課の高橋哲史課長は「OSINの会は新規就農者を受け入れているすぐれた組織。スモモでのまちおこしと町支援の住宅政策などは全国的にも珍しい。指導する農家がいて研修し、終わったら畑のあっせんもする。仲間のつながりもいい」と話している。

 宝島社の「田舎暮らしの本」では「住みたい田舎ベストランキング」を毎年発表している。2025年版は移住者の受け入れ実績▽移住者歓迎度▽移住者への支援▽生活の利便性――など314項目のアンケートについて、自治体の回答を集計して順位を決めている。全国547自治体が回答した。

 「人口5千人以上1万人未満のまち」で大江町は総合部門8位にランクイン。ほかに「5万人以上10万人未満のまち」で酒田市が6位、「10万人以上20万人未満のまち」で鶴岡市が5位、「20万人以上のまち」で山形市が9位(いずれも総合部門)などとなっている。

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