Smiley face

中島京子 お茶うけに

 「小さいおうち」で直木賞、「やさしい猫」で吉川英治文学賞などを受賞した小説家の中島京子さんが、日々の暮らしのなかで感じるさまざまなことをつづる連載エッセーです。

 新連載を始めるにあたり、タイトルが必要だという話になった。

「なんでもいいんです」と新聞の担当者さんはおっしゃるのだが、「漢字が少なめ」で、「五文字から七文字」という注文がある。

 お茶でも飲みながら気楽に読んでいただければいいなと思って、「お茶の時間」とか、「おやつの時間」みたいなものを考えたが、誰でも思いつくタイトルなので、ネット書店でタイトル検索をかけるといくらでも出て来る。これではまずい。

写真・図版
画・谷山彩子

 おやつ、という言葉の類義語を探したら「茶の子」というのが、あった。「お茶の子さいさい」ぐらいしか、用例を思いつかないが、「お茶の子」は「(腹にたまらないところから)たやすくできること」という意味があるらしい。それはおもしろいな、英語の「a piece of cake」というのに似てるな、というか、そっくりだな。人間、ぺろっと食べちゃうことと簡単にできる仕事というのは、感覚的に結びつくものなのだなと、感心した。けれども、beの連載はわたしにとって、ぜんぜん「お茶の子さいさい」ではないので、タイトルには不適当である。だいいち、「さいさい」って何よ。「さいさい」は俗謡の囃(はや)し言葉であると、辞書にある。「ヘイヘイ」みたいなものか。「楽勝だよヘイヘイ」みたいなことか。

 いずれにしても「茶の子の時間」は却下だ。

 つぎに「お茶うけにどうぞ」…

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