頭蓋骨(ずがいこつ)の模型とハーフミラーを挟んで向き合う小鷹准教授(右)。学生が同じ場所を同時に触ると、骨や脳を実際に触れられている錯覚に陥る=名古屋市千種区の名古屋市立大、溝脇正撮影

 半分透けて見える鏡を挟み、頭蓋骨(ずがいこつ)の模型と対面する。自分の顔の中に骨の輪郭が重なって見える。実験者が、被験者と模型の同じ場所を同時に触れると、実際に骨と頭の中を触れられたように感じる。

 そんな「からだ」の錯覚を科学する研究室が、名古屋市立大(名古屋市千種区)にある。芸術工学部の小鷹研理(けんり)准教授と学生らは、視覚や触覚などの感覚が、実際の物理的現実とは異なる認知を生み出す現象を探り、実証実験をもとに錯覚理論の確立を目指している。

 小鷹准教授は「新しい錯覚を探し続けたい。鬼ごっこのような子どもの遊びのひとつとして、当たり前に『からだ』の錯覚で楽しめるほど日常に溶け込むものになれば」と、研究意欲を燃やす。

 からだの錯覚が科学的に認知され始めたのは、1998年に科学誌「ネイチャー」で発表された論文がきっかけで、歴史が浅い。小鷹准教授は2012年から研究を始め、これまでに、学会やWEBなどを通して50件近くの「からだ」の錯覚を発表。世界錯覚コンテストでは、2018年以降で延べ5作品がトップ10入りを果たしている。

 「からだ」の錯覚は、VRやメタバースなどの分野での応用が期待されている。小鷹准教授も仮想世界に実質的(身体的)なリアリティーを与えることを目標にしている。しかし、現実とバーチャルの世界を混同させることには、魅力とともに危険もあると指摘する。

 例えば、現在、X(旧ツイッター)などSNSで起こっていることは、体のない空間で対面のないコミュニケーションが行われるため、極端な発言や行動が目立ちやすく、実際の現実とは乖離(かいり)した世界になりがちだ。これがメタバースにそのまま引き継がれると、現実の制約から解放された空間で何でも好きなことができる半面、現実との接点や実感が薄れてしまう、と危惧する。

 「現実の体験や実感を伴ったコミュニケーションが重要であり、メタバースもそのような実感を伴う空間であってほしい」

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