トランプ米政権の相互関税で、高い税率を課される見通しとなった東南アジア。米中摩擦を受け、中国から企業が生産拠点を移してきたこの地域も課税の標的となった。トランプ氏は税率の一部の適用を90日間停止すると表明したが、域内で「米国離れ」の加速は避けられそうにない。
- トランプ氏、「相互関税」90日間一部停止を表明 対中国は125%
米国が相互関税の「一部停止」を発表する前の9日朝、水産加工業者が集積するタイ中部サムットサコーン県では、魚の匂いが漂う通りから、地元大手の水産加工工場にミャンマー人やタイ人の労働者が次々と入っていった。
工場で働く女性(42)は、米政権がタイに高い関税をかけるとの見通しに不安の声を漏らした。「タイからの輸出が打撃を受けないか、心配だよ」
この地域に生産拠点を置くツナ缶世界大手のタイ・ユニオン・グループは、米国にも製品を輸出している。この日の同社の株価は3月下旬と比べて約7%下落。タイの株式市場では、食料品関連企業の銘柄が同様に大きく値を下げた。
タイ・ユニオンなど冷凍食品加工業者が加盟する組合でトップを務めるアヌチャ・テチャニティサワットさん(63)は、冷凍エビやツナ缶など水産加工品の輸出額のうち、米国向けは全体の2割超を占めると話す。
「新しい市場も見つける必要がある」
自身も水産加工会社「アンダマン・スリミ」を経営し、練り物やカニかまの原料となるすり身を、日本の紀文食品などだけでなく米国にも売ってきた。ただ、すり身は米国にも生産者がおり「この関税では(米国での商売は)難しい」。
同氏は、相互関税による短期的な生産減は、全体の10%程度になると見ており、「対応は可能だ」と言う。ただ、タイ政府による米国との関税引き下げ交渉の必要性とともに、米国に代わる「新しい市場も見つける必要がある」と訴える。
ウナギなど生鮮品を扱う地元の貿易事業者が懸念するのは、関税の応酬により起きかねない世界的な景気後退だ。この分野の主な輸出相手は中国や日本で、米国市場との取引は多くないものの、売り先での需要の減退は避けられないとみる。
地元業者で作る組合トップのチュンポン・カナワリさん(54)は言う。「地域全体にも、遅かれ早かれ打撃がくる」
インドネシアの履物産業も標的に
米国の高関税の影響を被るの…