釧路川の河口付近では、津波警報を受けて漁船が一時、沖に避難した=2025年7月30日午後0時6分、北海道釧路市大町、読者提供

 30日朝にカムチャツカ半島付近で発生した地震に伴う津波警報を受け、太平洋沿岸の各地で避難が呼びかけられ、観光施設などが対応に追われた。

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■千葉県

 「海岸を閉鎖します」。千葉県山武市の海沿いにある「海の家一力」の代表、金杉照子さん(51)は午前9時すぎ、市からそう連絡を受けた。

 ちょうどオープンするころ。バーベキューのために5人ほどの客がきていた。すぐに避難してもらい、予約客にも連絡して「向かうのをやめてニュースを見て」と伝えた。30人ほどが来る予定だったが、「みんなの命が大事」と話す。

津波警報が発令され、対応にあたる岩手県田野畑村の職員ら=2025年7月30日午前9時53分、岩手県田野畑村、三浦英之撮影

 千葉県旭市の海岸沿いにある飯岡地区の高台にも、多くの避難者が押し寄せた。夫が経営する高台の飲食店にいた渡辺雅子さん(78)によると、午前10時半ごろ、70台ほどの車しか止められない高台の駐車場に100台以上の車が詰めかけた。バスで避難する団体もあるといい、警察が片側を交通規制して誘導したという。「警報が出たらとにかく高台に逃げるという東日本大震災の教訓を思い出したのだと思う」

■北海道

 北海道釧路市のゲストハウスでは、テレビで津波警報の発表を知り、スタッフと宿泊者5人の避難を決めた。車で避難先の小学校へ向かったが、道路が渋滞。同様に避難しようとした人が多いとみられ、スタッフの女性は「東日本大震災もあったので、不安は大きい」と話した。到着までに通常の3倍以上の時間がかかっているという。

 知床半島の先端付近の岩場では、午前9時すぎ時点で小学生ら65人が待機を余儀なくされている。

 地元羅臼町の小中学生とボランティアの「ふるさと少年探検隊」で、ヒグマ警戒のハンターを含め引率者29人と、子ども36人。知床岬をめざして難所の岩をクライミング中、町教育委員会の担当者から、携帯電話で津波到達の恐れがあると知らされた。65人はそのまま岩に登り、標高20メートル以上の場所で待機しているという。

津波警報が出される中、高まる波=2025年7月30日午前11時ごろ、北海道・日高沖、HTB提供

 太平洋に面した北海道新ひだか町のひだか漁協では、所属する約15隻の漁船のほとんどが沖へ避難した。ブリ漁が本格化する時期。中村敬専務理事は「台風の波も入ってきて、潮位が30~50センチで上下しているようだ。このまま収まってくれればいいが」と声を落とした。

 北海道根室市の港では、北方領土の洋上慰霊に向かうための準備が進められていた。千島歯舞諸島居住者連盟によると、津波警報を受けて、船は沖合に移動。約60人の元島民らの参加者は避難したという。

■宮崎県

 宮崎市の青島海水浴場にある青島ビーチセンター「渚の交番」では、最初に津波注意報が出た後、遊泳禁止とした。担当者によると、海にはすでに数人のサーファーがおり、避難してもらったという。

 昨年8月、南海トラフ地震の臨時情報(巨大地震注意)が出た際にも遊泳禁止にした。その後、より近い避難場所がないか、マニュアルを見直したところだった。担当者は「天候不順も続いていたところだった。今回も影響が長引いて、客足が減ると問題だ」と肩を落とす。

■岩手県

 東日本大震災で被災した東北各地でも、自治体が避難を呼びかけた。

 岩手県北部・田野畑村の海沿いのホテルでは、宿泊客のスマートフォンから津波注意報のアラートがいたるところで鳴り響き、宿泊していた親子連れから悲鳴があがった。ホテルは「津波到達まではまだ時間がありそうなので、早めに宿泊施設を出て高いところへ逃げて下さい」と呼びかけた。

 高台へ向かう道は住民の車や工事車両で一時渋滞し、近くの漁港では小型漁船を陸へ引き揚げたり、船を守るために漁船を沖へ向かわせたりする漁師らの姿が見られた。漁師の一人は「船が大事だ、生きる糧なんだ」と話した。

 午前10時前、村は人口約2800人の約5分の1にあたる約600人に避難指示を出し、防災無線で「直ちに高台に避難して下さい」と呼びかけ、消防団らに避難誘導を命じた。

 岩手県釜石市の鵜住居町の避難所で受け付けをする団体職員の女性(43)は、「津波注意報で予想高が1メートルとニュースで聞いて、だめだと思って」と、すぐに避難袋を持ち、小6の長女と小3の長男、義父と避難した。午前11時現在で200人以上が避難。体育館は暑く、エアコンがないので教室に避難しているという。

■宮城県

 宮城県北部・気仙沼市では、海岸近くの職場で仕事の準備をしていた田村昂昨さん(38)が高台に避難してきた。サイレンが鳴ったが地震を感じなかったため、「最初は訓練かと思った」という。しかし、防災無線からサイレンが鳴り響き、海沿いのゲート・陸閘(りっこう)も閉まったと聞いて、「これは結構やばい」と避難を決断。「まだ昼間でよかった」と海を心配そうに眺めた。

 宮城県名取市の閖上(ゆりあげ)地区では、震災の教訓から、土地を3メートルかさ上げして市街地を再建している。午前9時40分ごろ、津波注意報が警報に引き上げられたことで、地区の大部分に避難指示が出された。海岸から約1キロの閖上公民館の2階に午前10時時点で約30人が避難。夏休み中の子どもたちや、海近くの工場で働く人たちも身を寄せた。

 平屋建ての復興住宅から避難してきた伊東与治さん(79)は14年前、津波からぎりぎりで逃げた経験を持つ。「(防災行政無線の)サイレンが鳴って、当時のことを思い出した。今もトラウマだ」と話した。

津波警報が県内全域に出されていることを知らせる道路の電光掲示板=2025年7月30日午前9時59分、和歌山県新宮市、菊地洋行撮影

■和歌山県

 和歌山県すさみ町の高台にある道の駅すさみでは、津波の到達予想時間の午前11時半前に、駐車場は車でいっぱいになった。建物内も人で混み合い、電話で家族に安否を知らせる姿も見られた。

 近くの海水浴場に神戸市から妻と一緒に遊びに来ていた片倉宏さん(70)は、スマートフォンに届いた警報に驚き、車で避難してきたという。「何度か遊びに来ているが、こんなことは初めてで慌てた。とにかく高いところに行かないといけないと思った」と話した。

南海難波駅には、津波警報の影響で一部区間で運転が見合わせになったことを知らせる看板が立てられていた=2025年7月30日午前11時53分、大阪市中央区、有元愛美子撮影

避難命令でフェリー着岸できない状態に

 津波警報を受けて港に避難命令が出ているため、フェリーが着岸できない状態になっている。

 商船三井さんふらわあによると、茨城の大洗港と北海道の苫小牧港を結ぶ航行中のフェリー計4便の入港が遅れる可能性があるという。

 また、太平洋フェリーも仙台港と苫小牧港が入港を見合わせているとして、仙台発名古屋行きのフェリーの出航が遅れる見込みとしている。

 各フェリー会社は港に近づかないように呼びかけている。

浜岡原発で取水槽周辺作業中断 設備に異常なし

 中部電力は津波警報の発令を受け、静岡県御前崎市の沿岸にある浜岡原発の1~5号機で、海水を取り込む取水槽周辺での作業を中断した。設備に異常はないといい、潮位の変化は確認されていないという。浜岡原発は稼働しておらず、廃炉や再稼働準備の作業が行われている。

コンビニ各社も一時休業

 コンビニでは30日、津波警報の発表を受けて休業が相次いだ。

 セブン―イレブン・ジャパンは午前10時すぎ、各店舗に向けて、人命を最優先し店舗の休業などの判断を加盟店側に委ねる緊急案内を送った。午前11時半現在で、北海道から関西地方までの約260店舗が一時休業しているという。

 ファミリーマートは午前11時現在、各自治体の避難指示などに基づき、271店舗が一時休業。ローソンも午前11時半現在で、北海道から中国・四国地方までの266店舗が休業しているという。

日本製紙、石巻市の工場を停止し従業員避難

 日本製紙は津波注意報を受け、30日午前9時ごろまでに宮城県石巻市にある工場で紙の生産を停止。従業員を工場2階に避難させ、3階に対策本部を設けた。北海道白老町の工場も同日午前に停止し、従業員を安全な場所に避難させた。

仙台空港付近の沿岸部。津波警報の発表を受けて仙台空港の滑走路が閉鎖となった=2025年7月30日午前10時37分、宮城県、朝日新聞社機から、嶋田達也撮影

仙台空港滑走路閉鎖

 国土交通省によると、津波警報の発表を受け、仙台空港の滑走路が午前9時41分に閉鎖となり、航空機への影響が出ているという。

 日本航空(JAL)によると、仙台空港に着陸予定だった伊丹・福岡発の2便が午前10時半時点で、滑走路の閉鎖により、それぞれ出発した空港に引き返している。仙台発で折り返し予定だった伊丹・福岡行きの2便も欠航になったという。

 全日本空輸(ANA)によると、伊丹から仙台へ向かっていた1便が伊丹へ引き返した。仙台から中部・伊丹・新千歳へ向かう3便と、中部から仙台へ向かう1便の計4便も欠航になった。これにより計約530人に影響が出たという。

【動画】地震の影響で滑走路が閉鎖された仙台空港=平野真大撮影

九州3県で津波注意報、宮崎の「津波避難タワー」解錠

 九州でも太平洋側の大分、宮崎、鹿児島の3県で津波注意報が発令された。宮崎県では、宮崎市や延岡市など9市町が避難指示を出した。沿岸部や海水浴場などから高台への避難を呼びかけている。

 宮崎県延岡市では注意報発令から約10分で、市が設置する「津波避難タワー」解錠された。周辺に高台がないことから2016年に設置された2階建ての建物で、地元の町内会が鍵を開け、希望者がいつでも入れるようにしたという。

 宮崎市の「みやざき臨海公園」では、ビーチを遊泳禁止とした。発令時は開場前で遊泳客はいなかったという。公園は通常通り開場したが、「海に近寄らないようにしてください」と放送で呼びかけたほか、バーベキューを予約していた客に中止の連絡を入れた。

 宮崎県門川町は地震直後、防災無線で津波注意報の発令を呼びかけた。町総務課によると、避難所は開設していないが、発令直後は町役場に約20人が一時避難し、車も十数台訪れたという。

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