Smiley face
写真・図版
塩見三省さん=安保文子氏撮影
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 2014年に脳出血で倒れた俳優の塩見三省さん(77)は、仕事に復帰した今も、これからも、リハビリ病院で出会った長嶋茂雄さんの言葉と笑顔を忘れずにいる。「病に倒れて生きてきた、この10年の師匠」と話す。

 半年近い入院生活を終え、外来で通うことになったリハビリ病院。「イチ、ニ」のかけ声とともに現れた大きな背中の人が、長嶋さんだった。小学生のころから憧れたスーパースターに驚き、二度と会えないと思って写真撮影をお願いすると「いいよ、いいよ」と応じてくれた。カメラを構えた妻の手は緊張で震え、写真はぶれた。

 だが、それから毎週1回、長嶋さんに会えた。それが楽しみで、長嶋さんのリハビリの様子を見るために少し早く行った。自分より10年前に脳梗塞(こうそく)で倒れた長嶋さんは、力強く歩き、走っていた。リハビリを超えてトレーニングの域。「ここまでいけるんだ」と励まされた。

 常に、誰に対しても笑顔だった。リハビリを休むと「先週どうしたの」と声をかけられた。車椅子のおばあちゃんにも腰をかがめて視線を合わせ、「どう?」と話しかける。この病気では腰をかがめて維持することは大変だったはずだ。いつも帽子をかぶっているが、人と話すときは必ず脱いだ。塩見さんは「あれほどのジェントルマンを知らない」と言う。

 ある日、そんな長嶋さんについ弱音を吐いた。

 「シオミさん、これも人生だよ……」

 静かに返された。同情するで…

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